【第18回】 2009年03月30日
「世界一決定戦」の名を借りた“大リーグの市場拡大” MLBを利するだけのWBCは止めたほうがいい
――「“真の勝者”はMLB」という現実
「地域別の一番の大口スポンサーは日本だ。大会関係者は『収入の半分以上は日本マネーになるだろう』と言う。各地とりわけWBC人気が高い日本から吸い上げたお金をMLBが持っていく構図が、より濃くなったかっこうだ」
WBCを通じて、ビジネスに長け、抜け目のない“MLBの本性”が曝け出されたわけである。
MLBのコミッショナーは、3月開催に反対する球団オーナーたちの声を受け入れず、「次回から出場チーム数を増やす」と、あくまでも強気を貫く構えのようだ。
真の国際大会のあり方を
徹底的に議論すべき
「将来的に日本も資金を出し、共催のかたちを考えなければならない」というNPB・加藤良三コミッショナーの談話が3月25日付朝日新聞に載った。WBCの継続を前提にしてNPBもMLBと対等の立場に立つ、という発想は、日米関係しか頭にない加藤氏の視野の狭さ象徴しているといえよう。
野球は、2008年北京オリンピックを最後に競技種目から除外された。5大陸での普及度からみて野球が除外されるのは当然であろう。ただ、IOC(国際オリンピック委員会)は、普及度ばかりでなく、大リーグが最有力の選手で構成したドリームチームを出場させないことも除外の理由に上げている。
つまり、そのようなドリームチームが出場しなければ見せ物として面白くなく、関心を集めない、というのだ。
国際野球連盟は、オリンピックへの復活を目指して活動しているものの、その鍵を握るMLBの消極的姿勢によって苦戦を強いられている。MLBは、野球のヘゲモニーに固執してオリンピックに対抗しており、容易にはIOCと妥協しないであろう。
国際野球連盟は、オリンピックにこだわるだけでなく、自ら主催している世界選手権の充実をはじめ、5大陸での普及のために加盟国の知恵を結集すべきであろう。
野球のプロ化は、世界的にある程度進むかもしれないが、限界があることも間違いない。国際野球連盟が知恵を集めなければならないのは、「見るスポーツ」としてではなく、「doスポーツ」として野球を一般の人たちに普及させるにはどうすればいいか、ということである。
WBCでは、そうした野球の普及には繋がらない。というより、むしろ阻害要因にさえなるといえよう。
とにかく、MLBの単独行動主義によるWBCを止めさせ、国際野球連盟加盟組織をはじめ、MLB、NPBなども含めて国際的に協議する場をつくり、どのような大会が望ましいかを徹底的に議論すべきではないだろうか。
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谷口源太郎
(スポーツジャーナリスト)
1938年鳥取市生まれ。講談社、文芸春秋の週刊誌記者を経て、フリーランスのスポーツジャーナリスト。スポーツを社会的視点からとらえた批評をてがける。市民の立場からメディアを研究する「メディア総合研究所」会員。フェリス女学院大学非常勤講師。著書「スポーツを殺すもの」(花伝社)、「巨人帝国崩壊」(花伝社)、「日の丸とオリンピック」(文芸春秋)など。
底の浅いスポーツ報道に高騰する放映権料、エージェントの暗躍やスポンサーと協会の利害関係、そしてスポーツを利用する政治家まで。スポーツは純粋な「競技」から、完全に「ビジネス」と化した。スポーツを殺したのは一体誰なのか。暴走するスポーツバブルの裏側を検証する。