だれが「スポーツ」を殺すのか ~暴走するスポーツバブルの裏側~

バックナンバー一覧

このページを印刷

【第18回】 2009年03月30日

「世界一決定戦」の名を借りた“大リーグの市場拡大” MLBを利するだけのWBCは止めたほうがいい

――「“真の勝者”はMLB」という現実

 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は、3月24日(日本時間)の優勝決定戦で日本が韓国を破って優勝し、幕を降ろした。

 大会期間中、NHKから民放にいたるまで、明けても暮れてもWBCの「侍ジャパン」を盛り上げる報道に狂奔した。その異常さに、いい加減うんざりしていたので終幕してほっとしている。その一方で、異常な扇動報道によって、視聴率もまた異常な高さを記録し、テレビの影響力の恐ろしさを改めて思い知らされた。

「世界一決定戦」という欺瞞

 「侍ジャパン」の情報を垂れ流し続けることで、WBCの本質的な問題などについて視聴者の思考を停止させる、脳科学でいう「心脳コントロール」にテレビは成功した、ともいえる。たとえば、WBCが「世界一決定戦」だと思い込まされたのではないだろうか。すこしでも疑問を抱かせる情報があれば、それが欺瞞であることに気づいたはずなのだが。

 主催がWBC株式会社(MLB・大リーグ機構と大リーグ選手会の共同出資)であること、世界から16チームしか出場していないこと、MLB単独で決めたルールや組み合わせが変則的であること、アメリカチームは有力選手を欠いていること、これらの点からみても「世界一決定戦」とはほど遠い。

 それにもかかわらずテレビは、視聴者が「なぜ?」「どうして?」という問いを発しないように、そうした情報を一切流さなかった。それこそ、テレビの心脳コントロールによる大衆操作の典型的な手法である。

 それゆえに、日本代表チームの健闘ぶりには敬意を表するにしても、テレビに操られて大会の本質について無知なまま欺瞞を受け入れ、「2大会連続世界一!」と大騒ぎするのは愚かだというしかない。

多額の日本マネーが
MLBの懐に・・・

 大会を通して白けてしまったことがいくつかあった。1つは、変則的な組み合わせの結果、優勝を決めるまでに日本対韓国戦が5試合にもなったことだ。また、先にも記したように、地元アメリカ代表チームが有力選手をそろえられず、不甲斐なかったのもその1つだ。

 アメリカ代表チームの編成がなぜそうなってしまったのだろうか。

 大会を創設したとはいえMLBに代表選手を決める権限はなく、各球団や選手の意向が最優先されたのだ。新聞報道によると、アメリカではWBCをオープン戦の1つと捉えている人がかなり多く、関心も低かった、という。それゆえ、アメリカ代表チームが不甲斐ない試合をしても大騒ぎすることもなかったのだろう。

 もともと、WBCを創設したMLBの狙いは、“大リーグの市場を世界的に拡大すること”にあり、アメリカ代表チームの勝敗を度外視していた。

 また、3月7日付朝日新聞の報道によると、大会による収入のすべてがWBC株式会社に入り、そこから各国に配分される仕組みになっており、第1回の例だとアメリカへの配分は、断然多く66%(MLB、選手会各33%)、NPB(日本プロ野球機構)には約13%だった。そして記者は、こう記す。

関連キーワード:アメリカ 社会問題 スポーツ

ソーシャルブックマークへ投稿: このエントリーを含むはてなブックマーク この記事をYahoo!ブックマークに投稿 この記事をBuzzurlに投稿 この記事をトピックイットに投稿 この記事をlivedoorクリップに投稿 この記事をnewsingに投稿 この記事をdel.icio.usに投稿

おすすめ関連記事

special topics

バックナンバー

第18回 「世界一決定戦」の名を借りた“大リーグの市場拡大” MLBを利するだけのWBCは止めたほうがいい (2009年03月30日)
第17回 北島康介選手の「日本卒業」が連想させる “スポーツバカ”からの脱皮 (2009年03月16日)
第16回 「国体は廃止すべきだ」――開催地・新潟から上がった国体批判 (2009年03月02日)
第15回 国会決議なき「政府の財政保証」も・・・。民意を蔑ろにして暴走する2016年東京五輪招致 (2009年02月16日)
第14回 横綱・朝青龍の最大の敵は、「品格症候群」の人たち (2009年02月02日)
第13回 スポンサー契約続々打ち切りへ・・・。 JOCの財政悪化で「選手強化」に暗雲 (2009年01月19日)

ページの上に戻る

feature

特集:中国の行方

特集:中国の行方

情報を握るものに富が集中する中国。構造改革に迫られたこの国の行方は? 特集はこちら!

メールマガジン登録

この連載に注目!

  • 高城幸司が聞く「社長直伝 仕事の極意」
  • マンガ 餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?
  • 負けないビジネス交渉術
  • トップ営業マンの売れる営業テクニック
  • 部下の心をつかむ上司力トレーニング
  • 『うつ』のち、晴れ 鬱からの再生ストーリー
  • 世界の大富豪に学ぶ!お金と愛情の成功哲学
  • 寺坂淳の株式天気予報
  • 中学受験 お父さんが教える算数

執筆者プロフィル

写真:谷口源太郎

谷口源太郎
(スポーツジャーナリスト)

1938年鳥取市生まれ。講談社、文芸春秋の週刊誌記者を経て、フリーランスのスポーツジャーナリスト。スポーツを社会的視点からとらえた批評をてがける。市民の立場からメディアを研究する「メディア総合研究所」会員。フェリス女学院大学非常勤講師。著書「スポーツを殺すもの」(花伝社)、「巨人帝国崩壊」(花伝社)、「日の丸とオリンピック」(文芸春秋)など。

この連載について

底の浅いスポーツ報道に高騰する放映権料、エージェントの暗躍やスポンサーと協会の利害関係、そしてスポーツを利用する政治家まで。スポーツは純粋な「競技」から、完全に「ビジネス」と化した。スポーツを殺したのは一体誰なのか。暴走するスポーツバブルの裏側を検証する。

話題の記事・注目の記事

スクエア画像
今週のキーワード 真壁昭夫
支持率低下で改めて振り返る オバマ政権の意義と“苦悩の本質”
スクエア画像
政局LIVEアナリティクス 上久保誠人
官僚支配を終わらせるために、 政策立案で幅利かす「御用学者」を一掃せよ
スクエア画像
SPORTS セカンド・オピニオン
W杯アジア最終予選中継 「危機感を煽る民放」と「冷静なNHK」、どっちを選ぶ?
スクエア画像
野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む
輸出激減が「底打ち」する時期は見えた!? 問題はそれ以降の新たなビジネスモデル
スクエア画像
Close Up
独禁法違反の判断に徹底抗戦 ジャスラックvs公取委の行方
スクエア画像
inside Enterprise
トヨタの「お客様目線」に疑問符 焦るプリウスの低価格戦略
スクエア画像
今週の週刊ダイヤモンド ここが読みどころ
経済の「なぜ?」「どうなる?」がわかる! 「大不況の経済学」を豪華講師陣が解説
スクエア画像
経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”
オバマ政権「バッドバンク構想」の実効性が疑問視される理由
スクエア画像
「婚迷時代」の男たち
婚活市場で人気急上昇の「理系クン」 ――狙い目“優良物件”か? それとも単なる“KY男”か?
スクエア画像
第2次リストラ時代(!?)に贈る 私が「負け組社員」になった理由
カリスマ女性社員から、ウザいKYオバサンに・・・。“時代遅れのジャンヌ・ダルク”と化した女課長の末路