取材・現場

現場に宿る真実 取材を重ねて本質に迫る

事件取材 家宅捜索に入る捜査員、迫る報道陣。混乱する事件現場は珍しくない 五輪取材 北京オリンピック・陸上男子100メートル決勝。報道カメラマンたちはゴールの瞬間を追う 国会 大臣のちょっとしたコメントが政局に大きく響くことも。記者たちは一言も漏らさぬようペンを走らせる。

 現場と向かい合い、目をこらし、聞きとり、反芻(はんすう)し、まとめあげる。新聞は、記者たちのそんな取材活動が形になったものです。

「現場」と言っても一様ではありません。それは時に突然の辞意を表明する首相の会見場であったり、年金改ざんの手口が証言によって暴かれていく国会の場であったり、事故米の不正転売問題で言い訳に終始する農水省であったり……。朝日新聞には国内外に約2500人の記者がいますが、2500人いれば日々2500の、いやそれを上回る「現場」を捉えています。そして、追うテーマによっては何日も何週間も、場合によっては何年もかけ、いくつもの現場を取材したうえで報じています。

 例えば、2008年7月21日に掲載された「ルポにっぽん車中12泊何でも運送」。競争激化を背景に生死と隣り合わせのような過酷な労働環境にある運送業界の実態を、長距離トラックに同乗して描いたルポルタージュ記事です。

 筆者の大阪本社社会グループ・金成隆一記者(31)が取材を始めたのはその1年前。当時は主に大阪府警の扱う事件・事故を取材する事件記者でした。07年2月に大阪・吹田市で死亡事故を起こした零細バス会社が、業績を上げるため運転手に過労運転をさせていたことが発覚、その捜査員が漏らした「長距離トラックはもっと大変やぞ」の一言が、ルポのきっかけです。

 こんな事故を引き起こしたバス業界よりひどい「労働現場」が本当に存在するのか。存在するなら背景を含めて報じ、問題提起をしたい――という思いが募りました。

トラックターミナルに通う

過酷な運送業界の実態を描いた、金成記者の記事

 とはいえ大都市・大阪では次から次へと事件が起きます。長距離トラック問題の方は、日課である夜回り(捜査関係者ら情報源の自宅などを訪れて情報を取ること)を終えた深夜午前零時すぎから1時間〜30分、時間を割きました。

 大阪近郊のトラックターミナルに通い、見知らぬ運転手さんたちに声をかけ、話を聞くのです。

 証券犯罪の取材なども抱えながら、100人近くに話を聞き、過酷な実態をつかみます。背景には運輸行政のゆがみがあることも見えてきました。強い信頼関係を築いた運転手さんに頼み込み、九州から関東を一往復するトラックに同乗。記事で書いたほかにも2回同行し、乗車時間は計60時間に及びました。記事に登場するのはある運転手の1日の言動であっても、長距離運転手に共通する「現場」の光景でなくてはいけない。何十人もの人に聞き、何度も体験(確認)したのはそのためです。これはルポに限った手法ではありません。

「専門」と「連係」

 一方、大勢の人数で現場を分担しながら情報を集めていくことも多くあります。火災なら、ある記者は火事の起きた現場で住民から話を聞き、別の記者は警察署や消防署で出火原因などを取材する、といった具合です。

 朝日新聞の記者たちが在籍する編集局は、専門とするテーマや企画別に20以上の部署に分かれています(下表)。専門性を高めた「守備範囲」を、責任をもってフォローする一方で、大きなテーマや複雑なテーマには部署を超え、連係して取り組みます。国政選挙などはその代表格です。

 担当も、興味を抱くテーマも違う。取材の進め方や、取材相手との人間関係の築き方も記者それぞれ、まさに十人十色です。しかし、現場に寄り添い、丁寧に拾い集めた情報を積み上げていくという「基本」は同じです。


【編集局の組織】東京本社編集局

  • 外交・国際グループ(総局・支局〈海外〉)
  • 政治グループ
  • 経済政策グループ
  • 産業・金融グループ
  • 社会グループ
  • 教育グループ
  • 地域報道グループ(総局・支局〈国内〉)
  • 生活グループ
  • 労働グループ
  • 医療グループ
  • 科学グループ
  • 文化グループ
  • スポーツグループ
  • 夕刊フィーチャー編集グループ
  • be編集グループ
  • オピニオン編集グループ
  • 声編集グループ
  • 編集センター
  • 写真センター
  • デザインセンター
  • 校閲センター
  • 世論調査センター
  • 航空センター
  • 北海道報道センター(支局)
  • 選挙事務局
  • 記事審査委員会

金成隆一(大阪本社 社会グループ)
 長距離トラックの運転席に空のペットボトルがあった。小便用と知ったのは同乗ルポの2日目。トイレに寄る時間もない過酷さの象徴だが、運転手に質問しなければ見落としていた。現場は真剣勝負だ。想像力を働かせ、いろんな角度から質問を繰り返す。そのプロでありたい。