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特集ワイド:森田健作・千葉県新知事に一言 「おれは男だ!」吉川くん役・早瀬さん

 2度目の挑戦で千葉県知事への夢をつかんだ森田健作さん(59)。そのまっすぐな生き方は学園ドラマ「おれは男だ!」さながら。ちょっと危なっかしくもある。「吉川く~ん」。森田さん演じる熱血漢の剣道部主将が、対立しながらも淡い恋心を寄せたヒロイン役、早瀬久美さん(57)に聞いた。【鈴木琢磨】

 ◇「小林くん」と同じ理想主義者。自分もそうだから、みんなも…視野がどうもね ブレーンが必要よ

 ◇ひとりで海に向かって 走っていっちゃダメよ!振り向いたらだれもいない。県民あっての知事なんだから

 ♪青春の勲章は くじけないこころだと……。たまにカラオケでマイクを握ると、モリケンっぽく甲高い声で歌ってしまう。ドラマの主題歌「さらば涙と言おう」。阿久悠さんのヒット曲とはいえ、しらふじゃ恥ずかしい。酔っ払った勢いでないと、とてもとても。そもそも「青春」なる言葉からして赤面もので。

 「アハハ、健ちゃんは、その青春をずっと看板にしてきたでしょ。青春の巨匠なんて言われたりね」。東京は品川のファミリーレストランで会った早瀬さん、青葉高校バトン部のハツラツとした吉川操そのまま、セーラー服が似合いそうなほど若々しい。

 「健ちゃんとはたまにゴルフをしたりね。『おれは男だ!』の小林弘二くんのころと少しも変わらないのよ。とっても不器用だし、彼。硬派で」

 ドラマが放送されたのは高度成長のまっただ中、71~72年にかけて。学園紛争の嵐が吹きあれた直後だった。当時、森田さんはこう書いた。

 <……あるセクトの議長という男が一般学生からつるし上げをくらった。どうするかと思ったら、彼は機動隊に守られて現場をやっと脱出することができた。俺(おれ)は、この光景を見ていて、なんとなくコッケイだった。(略)彼らの暴力や主義は、安住の地の中にいて、そこから一歩も出ずに行なわれているものでしかないことをはっきり証明してしまうシーンだった>(「若者派宣言<青春はタマネギだ>」勁文社、74年)

 「健ちゃんって、お父さんが警察官だったから。すごくまじめで。あのころ、みんなエレキやったりとか、フォークバンド組んだりとか、ダンスパーティーを楽しんだりとかだったのに、まったくそうじゃないのよ。出演者に健ちゃんのこと好きだっていう女の子も結構いたんだけど、撮影終わったら、じゃあって帰っていっちゃうし。男尊女卑っていうんじゃないけど、ずっと男は男らしく、女は女らしくって考えなのね。女は男が守ってやるもんだって」

 ■

 ある日の森田さん、九十九里浜にいた。手には竹刀ならぬマイク。海岸清掃を兼ね、サーファーや地元住人らを前にぶったのだった。強い海風に吹かれながらのモリケン節。

 「中途半端なんだよ。千葉県は。観光をいうなら、トイレをきれいにしようよ。九十九里って、かっこいいぞ、リッチな気分になったよ、そのくらい思わせなくちゃ。知事になったら、おれ言うよ。青春は九十九里にあり!って」

 そして念を押した。

 「みなさんも一緒に頑張らないと輝かしい千葉にはならない。日本一の千葉には」

 さすがは俳優、弁舌さわやか、お茶の間にすっと入り込んで、聴衆の気持ちをつかむワザを心得ている。ああ、似てるな、と感じた。タレント弁護士から大阪府知事になった橋下徹さんの演説と。知名度プラス、「くすぐり力」がそっくり。宮崎県知事の東国原英夫さんもそうかもしれない。じっくりものを考え、決断するのではなく、おしなべて秒単位、演出重視のテレビ世界で鍛えられている。タレント知事ばかりでいいの?

 「うーん、知名度があることは、その自治体に注目がいくわけで、トップセールスマンとしてはいい。でも、一般論として、政治のプロが欲しいな、と思うの。昔の吉田茂さんじゃないけど、そういう本物の政治家って永田町にもいないでしょ。2代目、3代目が地盤を継いでやって。私の父は白洲次郎と神戸一中の同級生だったの。奔放で進歩的な人でね、戦争に行ってないのよ。父なりの愛国心はあって。日本を憂えていた」

 いかにもしっかりもののお姉さんタイプ、それでいてほほ笑みを絶やさない。

 「小林くんと同じ、健ちゃんって理想主義者でしょ。どこまでも前向き。自分もそうだから、みんなも前向きでなきゃいけないみたいな、視野がどうもね。社会って、いろんな人がいるわけで。親孝行しなきゃいけないなんてやかましく言うけれど、あまりに正論、ストレートすぎて。うまくいかない親子関係だってあるんだし。ちゃんとブレーンをつくらなきゃいけないですよ」。まるでドラマ。「吉川く~ん、君はだな」。たじたじになった小林くんの裏返った声が聞こえてきそうである。

 ■

 さて、森田さんである。92年に参院議員に初当選、その後98年に衆院議員になり、政務次官の要職にもあった。初当選のときは当時の民社、社会党から推薦を受けたものの、のちに自民党入り。かと思えば、党を飛び出し、無所属となり、また復党する。「バッジを落としても信念は落とさない」。わがままぶりに政界は異端児扱いしてきた。

 その原点がこのあたりにありそうなので、再び「若者派宣言」から引用したい。こんなふうに書いている。自衛隊の決起をうながし、自決したかの三島由紀夫事件についてである。<俺は、俺自身も、こうした責任(割腹そのものではない)の取り方ができる、本当に自分の納得のできる行為をして死にたいと思った。青春の生き方としては最高だ>

 「へー、そんなことを。知らなかったなあ。美学なんですかねえ。まあ、ときどき心配になるような発言もするから。言い切るし。でも、あのころに比べたら、練られてきている。反対に最近の健ちゃん、注意してる。用心深くなって。健ちゃんは県庁の象徴、シンボルとしてはいいと思うの。号令はね。ただ細かい調整をやってくれる人が周りにいないと、危ないかな」

 どこまでも吉川操。既成政党への不信もあって、フタを開ければ100万票を超える圧勝に終わった森田さん。「おれは男だ!」とばかりに有頂天の彼に忠告するとすれば?

 「ひとりで海に向かって走っていっちゃダメよ! 振り向いたらだれもいない。県民あっての知事なんだから」

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ファクス03・3212・0279

毎日新聞 2009年3月30日 東京夕刊

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