筆者ら「杉並の不当な教科書採択取り消し裁判の会」などのメンバー6名は3月26日、扶桑社と自由社の中学歴史教科書を教科書目録に登載しないよう、文部科学大臣に請願しました。文科省では教科書課企画係長が応対しましたが、子どもを無視した官僚的で無責任な応答に終始していました。
請願後の記者会見
b>文科省に請願
「つくる会」教科書を採択した愛媛県、滋賀県と、大田原市、杉並区の市民団体に大阪の団体が加わり、計15団体が3月26日、連名で塩谷立文部科学大臣に請願を提出しました。
文科省には義務教育諸学校の教科書用図書を無償で安定供給する義務があります。扶桑社及と自由社は現在著作権をめぐって係争中なので、これらの教科書は仮に採択されても発行できなくなる可能性があります。請願では、文科省は教科書の安定供給を保障する立場から、この2社の教科書を教科書目録に登載しないよう、勧告しました。
文科省は教科書課の赤間圭祐企画係長と松岡晃代調査係長が対応しました。
文科省との不毛なやりとり(敬称略)
赤間 検定に合格した教科書で、発行者から「発行します」との届け出があれば目録に登載することになっている。文科省ではねるとかはねないの判断はしない。
質問 扶桑社版及び自由社版教科書は検定に合格したのか?
赤間 現在検定作業を行っているので静謐な環境を保つために、どの会社が検定申請したとか、しないとかはお答えできない。
質問 著作権で争っている状況があるということは加味しないのか?
赤間 検定は検定基準に則って検定審議会が教科書の内容に不適切なところはないかということを審査している。背景事情とは別の観点である。
質問 審議会メンバーの名前は公開しないのか?
赤間 静謐な環境を保つため審査中は行わない。終了後に行う。
質問 裁判中であることは静謐な環境とははずれているのでは?
赤間 学習指導要領を踏まえて審査を行っている。
質問 検定に合格したとしても裁判で発行できなくなった時、文科省としてどう責任をとるのか?
赤間 出版差し止め判決が出たとしても、判決はすぐ確定しない。確定までの間は採択するなとは言えない。判決が確定した場合、教育委員会で採択変えなどの措置が必要になるだろうが、その教科書が発行されるかどうかまだ不確定要素が残っているので文科省から具体的には申し上げられない。
質問 不確定要素のある教科書を目録に載せるのはおかしくはないか?
赤間 文科省としては届け出に従って載せるだけである。
質問 最高裁で差し止めが確定すれば、安定供給ができなくなるのでは?
赤間 その時には具体的にどうするかということはまあ、あるかと思う。判決がはっきりしていない間は文科省としてどうこう言えない。採択するのは教育委員会だ。
質問 教育委員会に丸投げし、文科省は責任を取らないということか?
赤間 なかなか申し上げにくいが、採択権限は教育委員会である。判決が確定し発行できなくなれば、それは責任者の方でやっていただく。
質問 それではミートホープ社みたいだ。検査に通って流通し、消費者が食べて偽装がばれても、検査には責任がないみたいに言っている。いつもお役所は被害を受けてから重い腰を上げているが、子どもたちが使うものなので保護者として安心できない。
赤間 何らかの対応を考えていかなければならないとは思っている。さきほど申し上げたように採択変えになる。
質問 子どもにとっては自分が今使っている教科書がいきなり変わることになる。怪しいと思っている偽装肉を、怪しいことが確定されるまで食べさせられのか?
赤間 発行を差し止められるまでは発行者には教科書を発行する権利がある。少なくとも内容については検定に合格しているので、発行を届け出ているものについては、目録に登載する。判決が確定していない状況で、採択するなとは言えない。
質問 安定供給できなくなることが予測されても、何もしないのか?
赤間 法律に書かれていれば我々としてもやらなければならないが、検定合格したものは目録に登載することが法律に書かれている。それでやっていくしかない。
質問 平行線ということで、他の点についてもお聞きします。
赤間 論点がいくつかあるというのは、教科書の内容についてと発行についてとあるということ。教科書の内容については検定に合格していればよい。今回のお話は、目録に登載すべきでないということなので、今の話でほとんどは話してしまった。法律に基づいて、制度的スキームに基づいて登載するということである。
質問 安定供給できないと予測できるのに、載せるのはおかしな話ではないか?
赤間 問題意識は持っている。どちらかの教科書が差し止められるという状態になるのか、それとも原告適格がないなどの理由やそもそも訴えの理由がないということで訴訟が却下され、そのまま発行される可能性もある。あらゆる選択肢の中で注視していく。
質問 今までにこういう係争中の事例があったか?
赤間 それはすぐにはお答えできない。
質問 これが初めての事例なら、法的にどうすべきかを研究し、法律の中に入れることを申し入れる。今までの話では、文科省は教科書の内容的なことだけ審査し、採択は教育委員会に任せるというので、ばかな訴訟をやっているような教科書を採択する教育委員会がおかしいことになる。文科省は教育委員会に対して指導もできないのか。
赤間 法律の中に検定、登載、採択については制度的スキームとして定めている。法律としては検定そのものについては検定審議会、採択は教育委員会の権限となっている。文科省としての指導はあるが、この教科書を採択してはいけないとは言えない。
質問 今日話していて一番抜けているのは子どもの視点。供給できないかもしれない教科書を選んだのは、教育委員会のせいだとすることは、文科省の責任放棄である。つまり子どもの立場に立たないということで、あなたは大臣の代わりに出てきているので、大臣失格である。
そろそろ時間ということで最後に筆者が一言述べました。
自分の子どものこととして、個人の立場に立ってほしい
文科省の判断は入れられないとおっしゃるが、今まで文科省は教育委員会に対していろいろと指導しています。例えば採択を学校採択にした方がよいとか、先生の意見をもっと聞くようにという指導を出している。今回も供給が不安定で発行されなくなる可能性のある教科書だということは、当然教育委員会に言っていいはずです。
それをやらないということは、こういう「つくる会」の教科書のような考えが今の日本の中で大きくなってきて、そちらの方に政府とか文科省がどんどん動かされていることの証明なのです。
あなた方は大臣の代わりだから、このような表面的・形式的な答弁しかしないけれど、個人に返って自分の子どもにとって、どういう教科書がいいのか考えていただきたい。今、日本が戦争のできる国になろうとしている時に、立場的にそういうことしか言えないかもしれないけれど、個人というものを絶対に忘れないで下さい。