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扶桑社と自由社の教科書を目録に載せないよう文科相に請願

渡辺容子2009/03/30
「杉並の不当な教科書採択取り消し裁判の会」など15団体は文科相に対し、扶桑社と自由社が発行を計画している「新しい歴史教科書をつくる会」主導の教科書は教科書目録に登載しないよう請願しました。同じ教科書をめぐって両社が著作権を争っており、安定供給できない恐れがあるためです。文科省の担当者は「採択するかどうかは教育委員会の権限」と責任逃れに終始しました。
日本 教育 NA_テーマ2
 筆者ら「杉並の不当な教科書採択取り消し裁判の会」などのメンバー6名は3月26日、扶桑社と自由社の中学歴史教科書を教科書目録に登載しないよう、文部科学大臣に請願しました。文科省では教科書課企画係長が応対しましたが、子どもを無視した官僚的で無責任な応答に終始していました。

扶桑社と自由社の教科書を目録に載せないよう文科相に請願 | <center>請願書を渡す</center>
請願書を渡す
「つくる会」と扶桑社の著作権争い

 今年は4年に1度の中学校教科書採択の年です。学習指導要領の改訂に伴う「端境期」ということで、今年採択された教科書は2年間使い、2年後にまた、新学習指導要領に基づく教科書検定と採択が行われます。

 2005年の採択では中学校歴史教科書として、「新しい歴史教科書をつくる会」主導の扶桑社版歴史教科書が、東京都、愛媛県委、滋賀県の各教育委員会で採択され(都立・県立の中高一貫校、特別支援学校で使われている)、市町村教委による採択地区563の中から東京都杉並区と栃木県大田原市の2か所で採択されました。採択率は0.39%です。

 「つくる会」は設立直後から内部対立やメンバーの脱会を繰り返し、とうとう分裂しました。一方、扶桑社は「『つくる会』教科書への教育委員会の評価が低く、内容が右寄りすぎて採択が取れない」として「つくる会」と決別し、教科書発行のための子会社・育鵬社を設立しました。「つくる会」から分かれた八木秀次氏らの「教科書改善の会」と協力して新たに教科書をつくることにしています。しかし端境期に関しては従来の教科書を発行し続けるようです。

 これに対し、「つくる会」は従来とほぼ同様の内容の教科書を自由社から検定申請し、同教科書の著作権は「つくる会」にあるとして扶桑社を相手に提訴して裁判で争っています。逆に扶桑社側は、同教科書は執筆者、監修者、扶桑社の共同著作物であるとし、複製することは許可しないとしています。

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扶桑社と自由社の教科書を目録に載せないよう文科相に請願 | <center>請願後の記者会見</center>
請願後の記者会見
b>文科省に請願

 「つくる会」教科書を採択した愛媛県、滋賀県と、大田原市、杉並区の市民団体に大阪の団体が加わり、計15団体が3月26日、連名で塩谷立文部科学大臣に請願を提出しました。

 文科省には義務教育諸学校の教科書用図書を無償で安定供給する義務があります。扶桑社及と自由社は現在著作権をめぐって係争中なので、これらの教科書は仮に採択されても発行できなくなる可能性があります。請願では、文科省は教科書の安定供給を保障する立場から、この2社の教科書を教科書目録に登載しないよう、勧告しました。

 文科省は教科書課の赤間圭祐企画係長と松岡晃代調査係長が対応しました。

文科省との不毛なやりとり(敬称略)

 赤間 検定に合格した教科書で、発行者から「発行します」との届け出があれば目録に登載することになっている。文科省ではねるとかはねないの判断はしない。

 質問 扶桑社版及び自由社版教科書は検定に合格したのか?
 赤間 現在検定作業を行っているので静謐な環境を保つために、どの会社が検定申請したとか、しないとかはお答えできない。

 質問 著作権で争っている状況があるということは加味しないのか?
 赤間 検定は検定基準に則って検定審議会が教科書の内容に不適切なところはないかということを審査している。背景事情とは別の観点である。

 質問 審議会メンバーの名前は公開しないのか?
 赤間 静謐な環境を保つため審査中は行わない。終了後に行う。

 質問 裁判中であることは静謐な環境とははずれているのでは?
 赤間 学習指導要領を踏まえて審査を行っている。

 質問 検定に合格したとしても裁判で発行できなくなった時、文科省としてどう責任をとるのか?
 赤間 出版差し止め判決が出たとしても、判決はすぐ確定しない。確定までの間は採択するなとは言えない。判決が確定した場合、教育委員会で採択変えなどの措置が必要になるだろうが、その教科書が発行されるかどうかまだ不確定要素が残っているので文科省から具体的には申し上げられない。

 質問 不確定要素のある教科書を目録に載せるのはおかしくはないか?
 赤間 文科省としては届け出に従って載せるだけである。

 質問 最高裁で差し止めが確定すれば、安定供給ができなくなるのでは?
 赤間 その時には具体的にどうするかということはまあ、あるかと思う。判決がはっきりしていない間は文科省としてどうこう言えない。採択するのは教育委員会だ。

 質問 教育委員会に丸投げし、文科省は責任を取らないということか?
 赤間 なかなか申し上げにくいが、採択権限は教育委員会である。判決が確定し発行できなくなれば、それは責任者の方でやっていただく。

 質問 それではミートホープ社みたいだ。検査に通って流通し、消費者が食べて偽装がばれても、検査には責任がないみたいに言っている。いつもお役所は被害を受けてから重い腰を上げているが、子どもたちが使うものなので保護者として安心できない。
 赤間 何らかの対応を考えていかなければならないとは思っている。さきほど申し上げたように採択変えになる。

 質問 子どもにとっては自分が今使っている教科書がいきなり変わることになる。怪しいと思っている偽装肉を、怪しいことが確定されるまで食べさせられのか?
 赤間 発行を差し止められるまでは発行者には教科書を発行する権利がある。少なくとも内容については検定に合格しているので、発行を届け出ているものについては、目録に登載する。判決が確定していない状況で、採択するなとは言えない。

 質問 安定供給できなくなることが予測されても、何もしないのか?
 赤間 法律に書かれていれば我々としてもやらなければならないが、検定合格したものは目録に登載することが法律に書かれている。それでやっていくしかない。

 質問 平行線ということで、他の点についてもお聞きします。
 赤間 論点がいくつかあるというのは、教科書の内容についてと発行についてとあるということ。教科書の内容については検定に合格していればよい。今回のお話は、目録に登載すべきでないということなので、今の話でほとんどは話してしまった。法律に基づいて、制度的スキームに基づいて登載するということである。

 質問 安定供給できないと予測できるのに、載せるのはおかしな話ではないか?
 赤間 問題意識は持っている。どちらかの教科書が差し止められるという状態になるのか、それとも原告適格がないなどの理由やそもそも訴えの理由がないということで訴訟が却下され、そのまま発行される可能性もある。あらゆる選択肢の中で注視していく。

 質問 今までにこういう係争中の事例があったか?
 赤間 それはすぐにはお答えできない。

 質問 これが初めての事例なら、法的にどうすべきかを研究し、法律の中に入れることを申し入れる。今までの話では、文科省は教科書の内容的なことだけ審査し、採択は教育委員会に任せるというので、ばかな訴訟をやっているような教科書を採択する教育委員会がおかしいことになる。文科省は教育委員会に対して指導もできないのか。
 赤間 法律の中に検定、登載、採択については制度的スキームとして定めている。法律としては検定そのものについては検定審議会、採択は教育委員会の権限となっている。文科省としての指導はあるが、この教科書を採択してはいけないとは言えない。

 質問 今日話していて一番抜けているのは子どもの視点。供給できないかもしれない教科書を選んだのは、教育委員会のせいだとすることは、文科省の責任放棄である。つまり子どもの立場に立たないということで、あなたは大臣の代わりに出てきているので、大臣失格である。

 そろそろ時間ということで最後に筆者が一言述べました。

自分の子どものこととして、個人の立場に立ってほしい

 文科省の判断は入れられないとおっしゃるが、今まで文科省は教育委員会に対していろいろと指導しています。例えば採択を学校採択にした方がよいとか、先生の意見をもっと聞くようにという指導を出している。今回も供給が不安定で発行されなくなる可能性のある教科書だということは、当然教育委員会に言っていいはずです。

 それをやらないということは、こういう「つくる会」の教科書のような考えが今の日本の中で大きくなってきて、そちらの方に政府とか文科省がどんどん動かされていることの証明なのです。

 あなた方は大臣の代わりだから、このような表面的・形式的な答弁しかしないけれど、個人に返って自分の子どもにとって、どういう教科書がいいのか考えていただきたい。今、日本が戦争のできる国になろうとしている時に、立場的にそういうことしか言えないかもしれないけれど、個人というものを絶対に忘れないで下さい。

ご意見板

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[43519] 藤重さまへ
名前:平田修
日時:2009/03/31 16:26
amazonから古本で買うという手があります。
それならば、出版社と著者に印税は入りません。
収益は、出品者と運営会社のamazonにしか
入りませんから。
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[43514] 読みたいけど
名前:藤重典子
日時:2009/03/31 14:16
向こうに印税が入るかと思うと買う気になれません。
短文の引用で批判文なら著作権問題が起こらないでしょう。
教科書をお持ちの方、執筆し、記事にして下さいませんか。
ややあつかましいお願いですが。
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[43503] 私が感心すること。
名前:村上久三郎
日時:2009/03/31 10:08
 人は誰も「成長課程の環境の違い」によって、思想・考えが固定化される傾向にあります。(浅学な私は、自分の固定した思想や考えは未だ持っていませんが。)
 国家思想に関わることについては、@故意に避け、全く関わらないインテリ、A豊富な知識を持っているが、全く行動に移さないインテリ、B自分の信じる思想・考えを行動に移すインテリ
などがございます。

 私は、左・右、問わず、(暴力行動でない)行動に移すBを評価するほうですね。このような方々に、裏表がない人間性を感じます。その意味で、写真に写っておられるご婦人達に感心しています。
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[43486] 皆様へのお願い。
名前:村上久三郎
日時:2009/03/30 23:49
 私は右よりのご「意見」も、左よりのご「意見」も尊重し、それらを読んで、学び、参考にして、最終的に自分独自の「思想・意見」を持ちたいと考えて、最初の「意見」を書きました。が、「意見」のテンション(緊張)が徐々に高まってきたようですね。皆様。まずはトーンの調子を少ーし、下げて戴けないでしょうか。
 

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[43483] 北川洋一さんって・・・・
名前:新井秦基
日時:2009/03/30 23:22
広島県立世羅高校校長の北川洋一さんですか?


組合の力が強く、部下たる教師からの突き上げを食らった校長が自殺した世羅高校。
韓国への土下座謝罪旅行を実施して有名になった世羅高校。


その世羅高校の校長先生ですか?
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[43482] まったく同感ですね
名前:井和代治郎
日時:2009/03/30 23:16
別府有光さん


検定はもちろん廃止すべきですね。
一般書籍で十分です。
わたしの言いたかったことは、検定に不満を唱えている人が、
その不満をとなえている相手先にどこそこのものを認可するなというようなことをいっているのがおかしいということです。
現在の裁判所なんてまったくあてにならないところなのに、かれらに限ってすぐに裁判に訴えるのと同じ。
かれらはたぶん一般書籍になったとしても「つくる会」の出版社に抗議するでしょう。それじゃ文部省とどう違うのかという話しです。
どんな凶悪な思想信条でもそれを抑圧するのではなく市場の悟性に委ねるおおらかな受容的精神をもってもいいのではないかなとおもいます。
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[43474] 井和さま?
名前:別府有光
日時:2009/03/30 22:22
検定が検閲なのです。
つくる会の西尾も検定があるから自由に書けないといって離脱しました。家永教科書裁判でも検定を検閲とする裁判官はいませんでしたが。
私は教科書を廃止して一般書籍を自由に使えばいいと思います。
教科書会社は文部官僚の天下り先らしいですよ!
教科書を廃止すれば高校大学の入試も廃止しなくちゃならんでしょう。
予備校も文部官僚の天下り先らしいですよ!
[返信する]
[43470] 村上さま
名前:渡辺容子
日時:2009/03/30 21:31
 教科書の購入については「つくる会」のHPをご覧下さい。現在使われている扶桑社版の「新しい歴史教科書」とほとんど同じ内容と思われます。
[返信する]
[43460] いわゆるトンデモ本の害
名前:北川洋一
日時:2009/03/30 20:24
2005年08月13日、英大手紙タイムズは「新しい歴史教科書をつくる会」が中心になって作成した教科書は、とうてい認めるべきでない」と論じる社説を掲載しました。

タイムズは、「日本政府がいくら「遺憾と反省」の念を繰り返し表明しても、このような勢力を放置する限り、しかるべき贖罪を求める声に応えるには至っていないことを理解すべきだ」とした上で、「つくる会」の教科書の検定合格については、日本の過去の侵略行為を反省しない教科書は認められるべきではないと断じ、「ドイツではナチスの過去を糊塗することは許されない。日本も自らの国益のため、 少なくともドイツと同じように当時の歴史評価について厳格であるべきだ」と述べています。

最近の日本は、ありとあらゆる分野で外交的失点を重ねています。つい先日は、IAEAの事務局長選挙に、麻生首相肝いりの天野之弥氏が不信任されました。日本政府の面目は丸つぶれとなりました。

安倍元首相が火をつけた従軍慰安婦問題では、国連や欧米、アジア諸国で次々と対日本批判決議がなされていて現在もなお続いています。つくる会のメンバーらが中心となって活動している歴史修正主義の一つである南京虐殺否定論は、世界から全く相手にされず、逆に日本軍の残虐さをテーマにした新作映画のオンパレード状態。日本と同じ敗戦国であるドイツまでが南京虐殺をテーマにした映画を作る始末。

しかし、つくる会などの右翼たちは、そういった世界の批判や声に一切耳を貸すことなく、独自の世界観を作り上げるとともに、彼らを批判する近隣国や世界を憎悪し、罵声を浴びせています。事あるごとに国益と愛国精神を叫ぶ一方、歴史修正主義に基づく「国家観」とか「歴史観」を強調し、そういった精神を学ぶと子供たちは日本を誇れるようになるのだと強調しています。 世界の批判の声に対しては、口封じをするために核武装するのが一番だと考えているようです。

最近興味深い世論調査が出ました。

内閣府が28日発表した日本など5カ国の青年に対する意識調査結果によると、日本で「自国人であることに誇りを持っている」と答えた人は、6年前の前回調査より9・1ポイント増の81・7%に上る一方で、「国際的視野」を身に付けていると考えている人は、日本が27・8%で5か国中最低との報告がなされました。

これは、悲しいことです。 「自国を誇れども世界とは対面したくない」というのは、自意識過剰と被害妄想が同居する、一種の自我分裂症状を呈しているからです。

自民党の右翼を中心とした政治勢力によってなされた「うぬぼれ型日本人」製造計画の犠牲になるのは子供たちです。大人になっても、日本から一歩も出れないような子供たち、あるいは世界の人々と戦時中の歴史の話を出来ないような内コモリの日本人をたくさん作り出すことが国益とどのように結びつくのか、私には理解できません。
[返信する]
[43455] 『日本の防衛』
名前:村上久三郎
日時:2009/03/30 20:02
 下記の「意見欄」に書きましたように、私は将来、中立的な立場から『日本の防衛』(仮題)の執筆を検討しています。まずは、いろいろの情報収集に取り掛かる積もりです。
 出版社に関しては、現在未定ですが、一般大衆向き(文系書籍)の出版社になることは確実です。下記の「意見欄」に記載した出版社は理工系書籍ですので、本件と全く関係がありません。誤解なきよう、お願い致します。 
[返信する]

3月23日〜29日 

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