「懐かしの昭和」「昭和レトロ」。昨年4月からの1年間、都内の話題を担当するようになり、以前にも増して、こうした言葉を耳にするようになった。
東京は新陳代謝が激しい。でも、それは都心の一部で、意外に昭和の面影を残す場所は多い。散策ブームに乗った谷根千(谷中、根津、千駄木)エリアは全国区の知名度になった。江戸情緒を残すといわれる上野・浅草でも、有名寺院に加えて人気なのは、昭和の息遣いが伝わる下町路地や商店街だったりする。
このブーム、1000年以上の歴史を誇る京都や奈良へのあこがれとは違う。単なる回顧主義ではなく、暗い世相の日本人にとって、たくましく成長した戦後の昭和が青春期のように懐かしく映るのだと思う。
自信を失くして内向きになりすぎるのは少し心配な半面、平成も20年以上がたった。昭和の遺産を振り返るのは大切だ。再開発ビルにありがちなガラス張り・無個性のビルよりも、やはり人が生きた味わいが残る街の方がいい。【井崎憲】
毎日新聞 2009年3月31日 地方版