プロローグ

午前3時半、まだ高速バスは東京についていない。新潟を出たのは11時半ぐらいで、最初はゲームをやっていたけど、車酔いをして、寝たのが大体午前1時半ぐらい。だいたい2時間ないぐらい寝たことになるが、眠れただけマシだと思おう。格安のバスなのでシートが硬いし、リクナイニングもたいして倒れないし、だんだん空気が澱んできていた。救いはとなりに座っている人が小柄だったことぐらいである。この悪環境を打破する術もなく、ただただ、バスが到着するのを待つしかなかった。

寝るほどの気力もなく、ゲームをやるには残りの充電が足りない状態。できることと言えば、外を見ることか、これまで、これからについて考えることぐらいである。後者を選べば唯でさえ悪環境がさらによろしくないものとなるので、流れる景色を見ることにした。殺風景だと思っていた外の景色はなかなか面白いものだった。どんどん流れ行く街の風景を見ていると、自分が通り過ぎる街に、どんな人が住んでいて、どんなこと生活をしていて、どんなことを考えているのだろうかと想像するだけで何か暖かい気持ちになれた。これから行くところもそんな暖かいところであることを願うばかりである。

午前6時、夜がうっすらと明け、バスは新宿に到着した。これから祖父の家に行くにはかなり早すぎるので、某ハンバーガーショップで朝食を取り、漫画喫茶で3時間ほど仮眠を取ってから向かった。飯田橋駅に到着。東口と西口があるが、人の流れに流され西口から出るしかなかった。

午前9時半、改札を出ると、目の前には川のような外堀を囲むように桜並木が続いていた。もっと良く見たくて、車道を挟んだ駅の反対の歩道に移り、しばらく目を奪うような桜の風景を楽しんだ。ようやく、桜以外のものにも目が行くようになって、少し離れたところに、ハッとするような綺麗な顔をした男の人がいたことに気づいた。その人は桜の美しさを楽しむ以外の何かの感情を持ちながら、見ているようなそんなやさしい目をしていた。

午前950分、ようやくトボトボと祖父の家がある武道館方面に歩いていった。交差点の遠く向こうから、群集よりも頭一つ以上飛び出した巨体がこちらに来るのが見えた。近づけば近づくほどさらに大きく見えてくる。眼光は鋭く、目が合っただけでケンカを吹っかけられ、片手で張り倒されて、ゲームオーバーにさせられるような雰囲気であった。よくよく近づいていくと、この巨獣の付属品ではないかと思うほど小さい子と一緒に歩いていた。どうも中身はやさしいのかもしれない。だが、「触らぬ神にたたりなし」と言う言葉があるようにできるだけ刺激しないようにそーと、そーと通りすぎた。

午前10時、坂の上にある祖父の家に到着。通うことになる高校は祖父の家のほぼ目の前にあるので、遅刻は絶対しないだろう。(そもそも、中学も通学時間30分ぐらい掛かったが、一度も遅刻はしたことはないが)祖父宅に入ろうとすると坂の下から、剣道着を着て、防具袋を背負った二人の美少女が上ってきた。一人はポニーテールで、ちょっと気が強そうな確固たる信念を持っていそうな感じの美少女であった。もう一人は、腰近くまで伸びた綺麗な黒髪が似合う「大和撫子」と言った感じの美少女だった。彼女達とこれから先、付き合えたらここでの生活はかなり良いものになるだろうと将来への期待を抱きつつも、近くに武道館があることから考えて、剣道大会で来ているだけの通りすがりであると思い、その期待を自分で殺した。

そして、祖父の家のチャイムを押した瞬間

「何か御用でしょうか?」

これが彼女との最初の出会いであり、良くも悪くもこれから起こる波乱のはじまりであった。

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