介護保険制度が4月から変わる。介護報酬の3%引き上げと要介護認定の見直しが柱だ。いずれも制度の大きな変更となるだけに、介護現場の混乱を防ぎ、介護サービスを利用している高齢者が不安にならないよう、十分な説明が必要だ。
報酬アップは介護人材の確保と処遇改善が狙いだ。高齢化によって介護職員は今後3年間に約18万人が必要になるが、低賃金や過酷な労働を背景に、他産業に比べ離職率が高く人手不足に陥っている。
介護職員が仕事を辞めざるを得ない状況を改善し、将来を見据えて人材の確保が必要であり、3%の引き上げで十分とはいえない。すべての介護職員の処遇改善はできそうにないからだ。過去2度、介護報酬が引き下げられ経営が苦しくなっており「引き上げ分は介護職員に回らないだろう」との見方が強い。
介護事業者は、報酬アップの最大の狙いが介護職員の処遇改善にあるという点を肝に銘じてもらいたい。
厚生労働省は有識者による委員会を設置して、処遇改善に反映されているかどうかを検証する。調査の方法などは今後詰めるが、介護労働者の声を十分に吸い上げる仕組みを作って、厳正な調査をすべきだ。報酬アップの使途が不透明で、給与アップにつながらないようなら、直ちに見直してもらいたい。それを検証する調査委員会の責任は重い。
報酬アップに加え、与党は追加の経済対策に、介護職員の給与を国費で援助することを検討している。介護職員の離職を防ぎ、資格を持っていながら働いていない潜在介護福祉士らの職場復帰にもつなげなければならない。
要介護認定の見直しでは、1次判定の調査項目を82から74にした。厚労省は「認定にばらつきがあり、公平性を高めるのが狙いだ」と説明する。同省が行った判定の新基準を当てはめたサンプル調査では、要介護度が低くなった人が20%、高くなった人は17%だった。「全体としては変わらない」と同省は言うが、新基準でサービスが低下する高齢者には影響が出る。個々の生活者への目配りが必要だ。
介護サービス利用者からは要介護認定の新基準に批判が出ており、従来より軽く判定される恐れがあるとの指摘を受け、同省は新制度の開始直前に新基準を一部修正した。利用者に十分説明ができていたとはいえず、不安は解消していない。現場の混乱が心配だ。
後期高齢者医療制度の場合も説明不足が指摘された。高齢者や現場の声を十分に聞いていないから同じ過ちを繰り返すのではないのか。机の上だけで計画を作るのではなく、現場の声にも耳を傾けるべきだ。
毎日新聞 2009年3月31日 東京朝刊