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社説

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民主党―このまま沈むつもりか

 民主党に吹きつける世論の風が、いちだんと厳しさを増してきた。

 朝日新聞の世論調査で、小沢代表の辞任を求める人が63%に達し、西松建設からの違法献金事件で公設秘書が逮捕された直後の57%よりも増えた。

 千葉県知事選では、自民党が三つの陣営に分裂したにもかかわらず、民主党の推薦した候補が敗れた。

 この冷たい風には、大きく言って二つの原因があるのではないか。

 まず、小沢氏自身の説明に説得力が欠けることだ。何の見返りもなしに、あれだけ巨額の献金をしてくれる企業があるものだろうか。出所の怪しいカネまで受け取って、どんな政治活動をしようというのか。

 小沢氏の言葉をいくら聞いても、こうした基本的な疑問は消えない。朝日新聞の世論調査で、86%もの人が小沢氏の説明では「不十分だ」と答えたのは当然のことだろう。

 もうひとつは、民主党の議員たちの対応があまりに鈍いことだ。

 先週、小沢氏は党の参院議員と衆院議員の総会でそれぞれ経緯を説明し、続投に理解を求めた。だが、そこで批判や疑問の声をあげたのはわずか2人だけだった。「小沢代表をリーダーとして頑張ろう」という執行部の方針があっさり追認された。

 確かに、一昨年の参院選を大勝に導いた選挙上手の小沢氏は頼りがいがあるのだろう。寄り合い所帯の民主党を束ねるのに、その重量感が役立ってきたのもその通りかもしれない。

 だが、多くの国民が民主党に期待しているのは、その先にあるはずの政権交代であり、日本の政治を変えるという、民主党の約束なのではないか。

 そのためにも、政官業の癒着構造にどっぷり漬かった古い体質をあらわにした小沢氏を、このまま党首にかつぎ続けていいとは思えない。

 天下りや官製談合を根絶し、税金の無駄遣いをなくすという民主党のマニフェストが、有権者にどれだけ白々しく響くことだろうか。そこを問う声が党内からほとんど出ないことに、人々は不満と不信を膨らませているのだ。

 この1カ月近くというもの、民主党の国会論戦、政策論議は著しく精彩を欠いている。捜査の推移や小沢氏の出方を見守ろうという空気が強かったためだが、そろそろショックから覚め、党の立て直しを真剣に論議しなければならない。このままでは、党の統治能力そのものに深刻な疑問符がつく。

 今回の事件は、秋までに必ずある総選挙に向けて、民主党の政権担当能力が問われる試金石だ。対応を誤れば国民の期待を裏切り、政権交代の実現も遠のきかねない。その危機感を、民主党の議員たちは持つべきだ。

 執行部の腰が重いならなおさら、議員ひとりひとりの行動が問われる。

公文書法案―この国会でぜひ成立を

 経済危機への対応や違法献金疑惑で永田町が揺れる中で、埋もれかかっている懸案がある。政府の公文書管理のルールづくりである。

 これまで各省ごとの判断に委ねられてきた公文書の管理について、政府横断的に統一的なルールを定め、国民の財産である公文書をきちんと管理・保存する。その第一歩となる法案が政府から国会に提出されている。

 政策がどのようにつくられたのか、どう実施されたのか。それを国会議員や研究者、つまりは有権者が調べようにも、今の仕組みでは書類がどこにあるかわからなかったり、捨てられたりしていることがよくある。公開が原則の国立公文書館という組織はあっても、そこへ移される文書が極めて少ないから、あまり役立たない。これが日本の行政文書保管のお寒い現状だ。

 これを改めようと、政府がこの国会に出した法案は、まず意思決定過程などで文書をきちんと作成するよう省庁に義務づけ、統一ルールのもとにそれを管理するとしている。

 具体的には▽歴史的価値のある文書は、期限がきたら原則として公文書館へ移す▽各省庁は毎年度、文書の管理状況を首相へ報告し、不備があれば首相は改善を勧告する。こんな内容が盛り込まれている。

 もちろん、これで満点と言えるような中身ではない。たとえば、保存すべき「行政文書」の定義から、職員の個人的なメモなどが除かれている。どのような文書をどう保存・公開していくのか、肝心の細目は法律が出来たあとの政令に委ねられている。ルール通りに運用されているかを監視する内閣府の態勢も十分とは思えない。

 民主党は「これではザル法になる」と批判を強めている。とはいえ、公文書をきちんと管理・保存し公開するという基本的な考え方では、大きな隔たりがあるわけではない。

 民主党にしてみれば、近く行われる総選挙で勝利した後、自らが主導して法律をつくった方がいいという思いもあるのかもしれない。だが、総選挙で政権を握ろうが野党にとどまろうが、今のような公文書の扱いを放置していていいはずはない。

 ならば、この国会でルールづくりの第一歩を踏み出すべく、与党と修正を協議し、成立させてはどうか。与党側にまた衆院解散先送りの口実に使われてはかなわないが、政局とは切り離して成立への努力をすべきだ。

 地味な法案ではあるけれど、この改革がきちんと実現すれば、霞が関の透明度はぐっと高まる。時々の行政判断が後の検証にさらされることになるから、官僚一人ひとりが意識を変えざるを得ない。緊張感も高まるだろう。

 日本の民主主義にとって、これは必要な改革である。

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