第2回WBC総括。
3月26日付読売新聞朝刊21面に、京都大学准教授の小倉紀蔵氏が書かれた「WBCから見る日韓」というコラムがありました。
ちょっと長くなりますが、この場を借りてご紹介させていただきたいと思います(『 』内、引用)。
『WBC決勝戦は、原監督が試合前に「世紀の一戦」と形容したごとく、まさに「決闘」という言葉がふさわしい内容だった。人生そのもののように苦しみと喜びがめまぐるしく交錯する哲学的な試合で勝利を収めた日本チームに、祝福と感謝の意を表したい。
今回のWBCで最も重要なことは、日本と韓国がともに決勝まで勝ち上がり、最高の試合を戦ったという事実であろう。アジアの野球が強く、うまく、おもしろいということがWBCという舞台で完全に証明されたということが、最大の収穫だったのだ。
しなやかで流麗な日本の野球。きりりと引き締まった美しい肉食動物がサバンナを自在に跳び回るかのようだ。それに対し、重量感があり爆発的なパワーを誇る韓国のヤグ(野球)。強靭な肉食動物が力ずくで獲物に襲いかかるかのようだ。
どちらがよりよい野球かという問題ではない。米国発祥の baseball を自分たちの文化や体質に合わせてつくりあげた、野球(日本)とヤグ(韓国)の個性の違いなのだ。そしてこの時代に生きているわれわれの喜びは、baseball も野球もヤグも同時に楽しめるということなのである。緻密な日本野球より豪快な韓国ヤグの方に魅力を感じる日本人がいたっていいし、美しきダルビッシュや岩隈の動きに胸をときめかす韓国人がいたっていいのだ。
野球とヤグの関係は、遡れば1980年代の韓国プロ野球黎明期以前からの歴史を持っている。当時韓国で活躍した新浦や福士といった在日選手の名が懐かしい。最近の関係の深化を示す象徴的な出来事は、イ・スンヨプ選手の巨人軍入団だった。イ選手の活躍を見ようと、たくさんの韓国人が日本のプロ野球のテレビ中継に釘付けとなった。その頃韓国人に会うと、「オガサワラはまさにサムライですね」などというので驚いたものだ。
今回のWBCをきっかけに、野球の世界でもアジアの発言権が高まるようにアメリカにどんどん働きかけていくべきだ。今後のWBC運営に関してももっとアジアが関与できないのか。その資格は充分にあるはずだ。そのためには、日韓はよきライバルであるとともに、よき仲間であることをもっと強く認識するのがよい。
韓国がこれほど急に強くなった理由のひとつは、日本の野球を徹底的に研究し、学んだことにある。日本も韓国から学ぶべき点はたくさんあるはずだ。すでに両国はそれほど緊密な関係なのだ。
残念なことに、大会中、インターネットの中では日韓両国ともに、相手を侮辱し憎悪する言葉が見られた。スタンドで韓国人の観客が竹島(韓国名・独島)に関するプラカードを掲げたり、韓国選手たちが勝利後マウンドに国旗を突き立てたりしたのはいただけない行為だった。国際大会に愛国心はつきものだが、国威発揚の手段としたり、排他的なナショナリズムのはけ口として利用するのは、野球という神聖なスポーツへの冒瀆である。
米国チームに勝利したあと、米国野球への尊敬の念をきちんと語った原監督はその点充分に紳士的であり、立派だった。前回大会の王監督とともに、日本では野球というスポーツが人間の精神性を育てる役割を果たしていることを世界中に見せたこともよかった。サムライは強いだけではなく、謙虚で気高い心を持つのである。
野球という競技を通して、自分と相手の双方のすばらしさを認め、互いに尊敬する関係をつくるという手本を、これからも日本が見せてくれることを希(ねが)う。そしてその土台の上に、互いの違いを認めつつ切磋琢磨する日韓関係を築くことを目指すのだ。その重要な通過点として、WBCは本当にいろいろなことを教えてくれた。』
WBCの存在意義・第2回の総括・これから進むべき方向性について、簡潔かつ明瞭に評した素晴らしいコラムだと思いました。
このコラムをご紹介して、私の中の「第2回WBC」も区切りをつけたいと思います。
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