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自然分娩専門に「手厚いケア」2009年03月26日
◆聖路加国際病院の新産科診療所、来年6月開設 聖路加国際病院(中央区明石町)は来年6月、助産師が中心となって運営する自然分娩(ぶんべん)専門の産科診療所を新設する。産科の閉鎖が相次ぎ、産科医不足が深刻な今、どのような施設を造るのか。また、なぜ開設するのか。(大井田ひろみ) ◆健康づくり重視 新しい産科診療所は、現在使われていない同病院3号館を取り壊して新築する。地上7階、延べ床面積約1700平方メートルで、ベッド数は19床。全室個室だ。ここで年間約500件、自然分娩の出産を受け入れることを目指す。 スタッフは医師3人、助産師45人の予定。助産師3人で1人の妊婦を担当する。自然分娩が基本のため、帝王切開など緊急で高度な処置が必要になれば隣接する同病院に移す。 ◆医師は助言役 同病院によると、新施設は一つの建物の中に二つの助産所があるイメージ。助産師は大きく2チームに分かれて配置され、医師はアドバイザーとしての存在となる。 1階はエントランスと多目的室、2階は医師や助産師による診察部門。3、4階のベッドを助産師1チームが担当し、5、6階は別のもう1チームが担う。7階には管理部門を置く。 3、5階は和室、4、6階は洋室といったふうに造りを変える構想。それぞれの妊婦がふだんの暮らしに近い状態で出産できる環境を目指す。 「家で出産できる状態ということは、妊婦が抱えるリスクが少ないということ。これが大切です」。診療所の開設に携わる、聖路加看護大学学部長の堀内成子さんは話す。 ◆費用抑えて リスクが低ければ医療の必要はない。自然分娩専門とすることで、高額な医療設備にコストがかかる病院より安価で手厚いケアを提供しようというものだ。「セレブ出産」としても知られる同病院での出産費用は約90万円かかるが、新しい産科診療所では60万円程度に抑える計画という。 低リスク出産には妊娠中からの健康づくりが重要で、そのためには妊娠初期からお産まで同じ助産師が継続してケアにかかわることが大切になる。通常、妊婦健診の1回の平均時間は病院だと5〜10分だが、産科診療所では20〜40分程度かける予定で、女性の体づくりに力を入れる。 ◆仲間づくりも どんなものを食べているか、夫の帰りはどうかなど丁寧に聞き、出産に向けて生活を整える。最近は孤独に陥りがちな妊婦も多いことから、妊婦同士で一緒に食事をするなど仲間づくりも進める。 堀内さんは「産科を取り巻く社会状況は厳しく、出産に不安を感じる女性も多い。新しい診療所が『いつか自分も産んでみよう』と女性に思ってもらうきっかけになればうれしい。出産に向けた両親クラスをいろいろ準備しているので、初産の人も出産を経験した人にも利用してほしい」と話している。 ◆日野原重明理事長に聞く なぜ今、産科診療所を開設するのか。同病院の日野原重明理事長(97)に聞いた。 夫婦共働きで女性が子どもを2人以上産むには、産前産後も気軽に相談できる産科施設が近くにあることが必要だ。聖路加国際病院の本院では年間約900件の分娩(ぶん・べん)を扱っているが、予約でいっぱいなのが実情だ。 最近は産科医が足りない。昼も夜もなく休みも取れない仕事で、お産をめぐる訴訟も増え、産科医を志願する若い医師が減っている。 女性1人が生涯で産む子供の平均数を示す「合計特殊出生率」は07年、全国で1・34だった。前年よりわずかに上向いたが、低水準であることは変わらない。東京都は全国最低の1・05だ。この状態が続くと日本の人口は減り、産業にも悪い影響を及ぼす。 よその病院は産科を縮小しているが、こういうときだからこそ、逆転の発想で分娩数を増やそう、病院としての使命を果たそうと考えた。 そのかわり普通の産科ではない。新設する産科診療所は助産師をメーンにした施設となり、新たな挑戦といえる。分娩費は本院より低く抑え、少しでも多くの人が使いやすいようにする。子どもを産む前も出産した後も気楽に診察を受けたり相談したりできる場所にして、日本のモデルにしたい。
マイタウン東京
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