主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人澤邊金三郎の上告趣意第一点について。
所論は、違憲をいうが、その実質は、單なる法令違反、又は事実誤認若しくはこれを前提とする法令違反の主張に帰し、刑訴405条の上告理由に当らない。そして、職業安定法は、舊法とは異り産業上の労働力充足のためにその需要供給の調整を図ることだけを目的とするものではなく、廣く職業の安定を図ることを大きな目的とするものであることは、夙に当裁判所大法廷の判例とするところであるから(昭和25年6月21日大法廷判決、判例集4巻6号1049頁以下参照)、原判決の認容した本件第一審判決の認定した判示接待婦等を紹介したような行為が職業安定法63条、64条等の処罰規定に該当するものであることは、多言を要しないところであつて、所論のごとく同法の適用外の自由に放任された業務である,と解すべき理由を見出すことはできない。
また、同法5条にいわゆる雇用関係とは、必ずしも嚴格に民法623条の意義に解すべきものではなく、広く社会通念上被用者が有形無形の経濟的利益を得て一定の条件の下に使用者に對し肉体的、精神的労務を供給する関係にあれば足りるものと解するを相当とするから、第一審判決が証據に基き本件郡山関係、飛田新地、名古屋中村新地、松島新地及び京都府下における各業者と本件各婦女との実際の関係を判示のごとく認定し、その関係が同法にいわゆる雇傭関係に当るものと判断し、原判決もこれを是認したのは正当であるといわなければならない。(なお、昭和27年12月18日当法廷決定判例集6巻11号1319頁以下参照。)従つて、原判決には、所論の法令違反も認められない。
同第二点について。
所論は、憲法22条違反をいうが、原判決並びに原判決の認容した第一審判決は、被告人が有料の職業紹介を行い又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介を行つたことを処罰したのであつて、婦女の純然たる接客婦となる職業の選択を不法としたものでないこと明白であるから、所論(一)の主張は、その前提を欠くものといわなければならないし、また、憲法22条は、「公共の福社に反しない限り」との制限が
あるのであつて、職業安定法が右のごとき職業紹介を公共の福社のため禁ずるもので憲法22条等に違反
しないことは、論旨第一点に引用した当裁判所大法廷の判決の趣旨とするところである。されば、所論(二)の主張も採用できない。
同第三点について。
所論は、判例違反をいうが、所論引用の名古屋高等裁判所の判例は、昭和22年勅令9号施行後正当に認許された純然たる貸席業(待合を含む)、料理業又は特殊喫茶店並びに右營業に従事するいわゆる「接客婦」に関する判例であつて、本件第一審判決が証據により適法に認定した本件業者並びに婦女には適切でない。そして、原判決の正当であることは、論旨第一点で説明したとおりである。されば、所論は、結局原判決の判示に副わない事実関係を前提とするものであつて、採用できない。
同弁護人の追加上告趣意第一点乃至第三点について。
所論は、事実誤認、單なる法令違反、量刑不当の主張でめつて、刑訴405条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、同411条を適用すべきものとは認められない。
よつて、同408条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する
昭和29年3月11日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 岩 松 三 郎
裁判官 眞 野 毅
裁判官 齋 藤 悠 輔
裁判官 入 江 俊 郎
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