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横浜事件、再審また免訴 地裁判決、有罪・無罪判断せず

2009年3月30日14時29分

写真:「免訴」判決が集まった支援者に報告された=30日午前10時32分、横浜市中区の横浜地裁前、遠藤真梨撮影「免訴」判決が集まった支援者に報告された=30日午前10時32分、横浜市中区の横浜地裁前、遠藤真梨撮影

写真:「免訴」判決を受け、会見する請求人の小野新一さん(右)と斎藤信子さん(中央)=30日、横浜市中区、遠藤真梨撮影「免訴」判決を受け、会見する請求人の小野新一さん(右)と斎藤信子さん(中央)=30日、横浜市中区、遠藤真梨撮影

 戦時下最大の言論弾圧とされる「横浜事件」の第4次再審請求で、治安維持法違反で有罪が確定した元被告に対する再審の判決が30日、横浜地裁であった。大島隆明裁判長は、戦後に同法が廃止されたことなどを理由に、有罪か無罪かに踏み込まずに裁判手続きを打ち切る「免訴」を言い渡した。

 昨年10月に同じ大島裁判長が出した再審開始決定では、「実質無罪」といえるだけの証拠を挙げていた。しかし、この日の判決は明言せず、遺族が今後、改めて請求すれば進められる刑事補償手続きに、無罪かどうかの判断を先送りした形だ。

 刑事補償法は、実質的に無罪と認められる場合は国に補償を請求できるとしており、裁判所が拘束期間や精神的・身体的苦痛などを判断し補償額を決める。弁護側は控訴せずに判決を確定させ、刑事補償手続きに移る意向を表明した。

 4次請求の元被告は、雑誌「改造」の編集部員だった小野康人さん(59年に死亡)。42年に政治学者の細川嘉六氏(故人)が発表した論文の校正を担当。この論文が「共産主義の啓蒙(けいもう)だ」として神奈川県警特高課に逮捕され、終戦直後の45年9月に有罪判決を受けた。根拠となった治安維持法は同年10月に廃止され、小野さんは大赦となった。遺族が再審請求していた。

 大島裁判長はこの日の判決の中でも、再審開始決定を引用する形で「無罪にすべき新証拠」を改めて提示した。

 特高警察が「共産党の再建準備会」とみなした、富山県泊町(現・朝日町)での会合(泊会議)は「単なる慰労会」で、自白は特高警察による拷問による取り調べによるものだったことを挙げ、「法的な障害がなければ、再審公判で直ちに実体判断をすることが可能だ」と言及した。

 その一方で、判決の主文は「免訴」とした。当時の刑事訴訟法では「法が廃止されたり大赦があったりした場合には免訴とする」と規定されていたためだ。

 「終戦直後の混乱期に判決が言い渡され、裁判記録が故意に廃棄されたと推認される」などと、この事件の特殊事情を認めながらも、判決は「(有罪か無罪かの)実体判決をすることはできない」と結論づけた。

 大島裁判長は先月の再審初公判で、小野さんを有罪とした元の裁判記録を当時の裁判所が焼却した点に触れて「不都合な理由で破棄したとみられ誠に遺憾」と述べ、一連の再審の中で初めて、裁判所としての責任を認めていた。

 横浜地検の滝沢佳雄次席検事は「検察官の主張が認められたものであり、妥当な判決である」とのコメントを出した。(長野佑介)

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