誰が見てもそれとわかるハイブリッド専用車として生み出され、しかも価格は安い。誰もが違和感なく運転できて、それでいて燃費は良好。インサイトのコンセプトとは、要約すればそんなところだろう。そして実際、それはハードウェアにしっかりと落とし込まれている。しかし今回を含めて何度かそのステアリングを握ってみて思うのは、ハイブリッド車としての、あるいはクルマそのものの魅力、訴求力が今ひとつ薄くはないかということだ。
たしかに、それなりに燃費は良いとして、平たく言えば、他にインサイトならではの「買って良かった」と思わせる部分として思い浮かぶものが、あまりない。違和感をなくそうとした運転感覚は、一方で、ハイブリッドの特性をうまく引き出して走る楽しさをも薄めてしまった。アクと同時に旨味も取ってしまった、なんて喩えられるかもしれない。
べつに特殊であれと言っているわけではない。普通に乗って燃費がいいだけじゃなく、グルメな舌には、その先、その奥の歓びが感じられるものであるべきじゃないかということである。それはハイブリッドらしさでも、あるいは乗り心地でもなんでもいい。購入して3年乗ったところで振り返って、印象に残っているのが停車中にエンジンが止まった記憶と燃費の良さというだけでは寂しいじゃないかという話だ。
ベーシックカーだから、マニア向けじゃないから、それぐらいでいいのだという考えだとしたら、それはどうせ大抵の人は本当の味なんかわからないという料理人と同じことだろう。そんな不遜な態度ではないと信じたいが、少なくとも、今この時代にクルマを買う意味を求めているユーザーに対しては、やはり薄味に過ぎはしないだろうか。
今は販売好調と聞く。しかし、たとえば新型「トヨタ・プリウス」が噂のとおり近い価格で出てきた時に、インサイトはなにをウリにできるだろうか? ましてや今回は、燃費も思ったほどではなかったと考えると……。
その価値、意義はおおいに認めたい。クルマが売れない時代の、一筋の光明だということも十分承知している。しかし、だからこそホンダにはこんなところで満足してほしくはない。辛口の評価は、そういう意味を込めたエールのつもりである。