給与を受けながら勤務時間に無許可で労働組合活動を行う「ヤミ専従」問題で、農林水産省は実態調査の関係文書を改ざんしたなどとして秘書課長ら二人を更迭した。依然として改まらない官庁の隠ぺい体質に強い憤りを覚える。
農水省のヤミ専従疑惑は、昨年三月に人事院に寄せられた情報から浮かび上がった。農水省では、秘書課が全農林労働組合の幹部千三百九十五人について四月一日時点の勤務状況を調査、百四十二人にヤミ専従の疑いが持たれた。しかし、その後、組合側に調査日時などを事前に通知してさらに二回調査し、最終的にはゼロとなった。
実態を把握するのに事前に通知して行うとは合点がいかない。さらに秘書課長は一部報道機関の取材に対し、最初の調査結果を伏せて該当者数を過少に説明、日付の改ざんや不都合な記述を削除した文書を渡したとされる。労使ぐるみで問題を覆い隠そうとしたと受け取られても仕方なかろう。
石破茂農相から事情聴取を受けた際、秘書課長は「農水省を守りたかった」と釈明したというが、ヤミ専従は国家公務員法に違反するとともに税金の無駄遣いにも通じる。官庁は国民のために業務遂行に最善を尽くし、問題が出れば迅速に正す責務を負っている。組織を守るために不都合な問題を隠すことは、国民に対する背信行為であり言語道断だ。
農水省では不祥事が相次いでいる。農薬汚染された事故米の不正転売問題では、汚染米を購入した業者に再三点検に入りながら不正を見抜けなかった。業者による接待も判明した。不祥事が発覚する度に出直しや意識の改革などを誓ってきたが、今回のような内向きの姿勢を見る限り、教訓を真摯(しんし)に受け止めてきたとは思えない。
低迷する食料自給率や、担い手不足、市場開放の圧力など日本の農業を取り巻く情勢は厳しさを増している。意欲ある農家を育て、足腰の強い農業を目指す構造改革が急がれるが、大改革に取り組むには農水省自体の改革が欠かせない。
農水省は、すでに設置しているヤミ専従問題の特別調査チームを拡充し、文書の改ざんも含めて調査に当たり、結果を公表するという。事態の経緯や、不正を許してきた要因、秘書課長の判断だけで行われたのかなど知りたいことは多い。外部の目を十分に入れて全容の解明を進め、ウミを出し切らなければ信頼回復はおぼつかない。
今年二月に行われた看護師国家試験をめぐり、試験委員だった尾道市内の看護専門学校の女性副校長が試験問題を漏えいしていたことが明らかになった。厚生労働省は副校長を試験委員から免職処分にするとともに、保健師助産師看護師法違反の疑いで刑事告発も検討している。
副校長は二〇〇七年五月から国家試験の委員を務め、問題の作成に携わってきた。厚労省によると、試験委員は国家試験対策への関与が禁じられているが、副校長は一月と二月に実施した学内の模擬試験で国家試験とよく似た七十二問を出題、学生に問題を漏らしたとされる。
模試を受けた複数の学生が学校側に相談して不正が発覚した。国家試験を受けた同校の学生三十三人については、厚労省が該当する問題を採点対象から除いて再評価するなどした結果、全員の合格が認められた。
副校長は厚労省の事情聴取に対し、「全員合格させたかった」と話したという。高い合格率で学生の確保を図るためか、単に学生を思う気持ちからか。いずれにしても浅はかな行為にあきれるばかりだ。国家資格の価値は厳正な試験に裏打ちされた知識や技術への信頼性にある。医療という重い任務に携わる看護師の場合はなおさらだ。試験委員としての使命感はどこにいったのだろうか。
学校側の対応も問題だ。副校長は国家試験の前に事務長に「似た問題を出した」と報告したが、校長に伝わったのは国家試験の翌日という。試験問題の漏えいは、懸命に勉強してきた他校の学生の不公平感はもちろん、自校の学生にも不安を抱かせた。関係者の猛省を促すとともに、受験者を教える立場にありながら問題作成に当たる是非などを含め、再発防止への見直しを強く求めたい。
(2009年3月30日掲載)