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「“メディア良化法”がやってきた!?」出版労連緊急集会

「根底には浄化思想」と懸念を表明

渋井 哲也(2008-05-10 14:00)
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「少女コミック」の性表現批判について話す山氏(撮影:渋井哲也)
 日本雑誌協会・編集倫理委員会委員長で、小学館執行役員の山了吉氏は5月9日夕、「出版研究集会2008 緊急プレ集会」(日本出版労働組合連合会主催)の中で、インターネット規制法案や児童ポルノ法改正案などの問題点を指摘し、「一番通しやすいのがインターネット規制。その根底には環境を“浄化する思想”がある。そして、図書類の規制も視野に入っている」との懸念を表明した。

 「“メディア良化法”がやってきた!? 出版の自由と『有害』情報規制、その現状と対抗策」と銘打った、山氏の講演会は、東京都文京区の出版労連で開かれた。編集者や図書館関係者、ネット事業者、フリーライター、漫画家、翻訳家らが参加した。

 同日は「緊急」という名の通り、集会を数日前に知ったという人ばかりだった。

 講演のタイトルになった「メディア良化法」とは、作家・有川浩氏の小説で、漫画やアニメにもなっている『図書館戦争』(メディアワークス)に出てくるメディア規制法のこと。

 同書では、「図書館法」によって図書館だけが「メディア良化法」に対抗できる設定になっている。

 メディアの規制に関してはこれまでも議論されてきた。「有害」コミック規制運動や、自民党が立案したメディア規制関連三法案(個人情報保護法、人権擁護法案、青少年有害社会環境対策基本法案)、元東京都副知事で、警察庁生活安全局長(当時)だった竹花豊氏が設立した「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」、そして、情報通信法案や青少年ネット規制法案、児童ポルノ法改正案などがある。

 これらは青少年にとって「有害」、「不健全」であること等を理由にするメディアを規制するもので、その都度、議論がされてきた。

 山氏は、

 「青少年ネット規制法案は、単にインターネットを規制するものではなく、のちに“有害”図書規制につながっていく。これは、“有害な環境”を浄化しようとした青少年有害社会環境対策基本法案を同じ発想。特に反対しなければならない。図書類や流通、通販なども取り締まりたいとする中で、インターネットの規制が先にきたのだろう」

などの見解を示した。

 こうした“有害環境”の浄化の動きは、自主的倫理審査団体「日本ビデオ倫理協会」(ビデ倫)への強制捜査もリンクしていると山氏は指摘する。ビデ倫は歴代の事務局長が警察出身者で、これまで警察に親和性があったにもかかわらず、薄消し(*性器が見えないようにモザイクを入れるが、薄消しの場合はそのモザイクが薄い)を理由に強制捜査に入ったことは、ビデオやDVD等の映像を提供する業界には衝撃を与えた。

 この強制捜査について山氏は、

 「これまで自主規制でしてきたビデ倫はほぼ解体状態になった。そもそも、国家権力が、『この情報は健全』、『この情報は不健全』と分けるのはおかしい。他の機関も(強制捜査の理由になった)薄消しを行っていたのに、なぜビデ倫だけが対象になったのか。これは警察権力を甘く見てはいけないということを示している」

と批判。児童ポルノ改正議論の中で「児童ポルノの単純所持を違法化すると、捜査権の濫用を招く」という声に同調した。

 また、「少女コミック」や「レディースコミック」(レディコミ)で、性表現が多かったり、なかにはボーイズラブ(男性の同性愛)の描写があることが問題視されてきたことに関しては、

 「生殖ではなく、快楽としての性についてどうとらえるかの議論が日本ではなかなかできず、タブーになっている」

などと話して、性表現に関して感情的な批判が多い現状を指摘した。

「改正案には反対だが、児童ポルノの単純所持を違法化するとしても厳密な定義が必要」と会場からの質問に答える山氏(撮影:渋井哲也)
 さらに、インターネットでの規制は流通やネット通販にも影響があることから、研究会を立ち上げ、関連する業界との連携をしているとを説明した。ただし、現実問題としてメディア規制の法律が通過してしまうこともあるが、

 「その場合、国会審議の過程で、きちんとした質疑をして議事録を残すことや、付帯決議に要望を盛り込むことが大切。もし、裁判になったときに、議事録は証拠になる」

として、法案に反対することを前提にしながらも、成立が間近になった場合には国会議員への働きかけも重要だ、とした。

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