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長野県南部に位置し、中央アルプスや南アルプスの山々を望む上伊那地方。新医師臨床研修医制度が始まった二〇〇四年度以降、この地方でも全国と同様に、地域の公的病院は深刻な勤務医不足になった。救命救急を担う医師も減り、地域の救急医療体制が崩壊の危機に直面する中、地元の上伊那医師会が、公的病院の診療支援に乗り出している。
呼び掛けに30人
上伊那地方は伊那市や駒ケ根市、辰野町など二市三町三村で構成。ここで救急医療の中核的な役割を果たしているのが伊那市と箕輪町、南箕輪村の三市町村でつくる一部事務組合・伊那中央行政組合が運営する伊那中央病院(伊那市、三百九十四床)だ。
病院には、軽症から重症までの患者を二十四時間体制で受け入れる地域救急医療センターがある。だが、〇五年度まで七人いたセンターの専従医は、勤務医不足の影響で年々減少。〇七年四月には三人に減り、二十四時間体制の受け入れが厳しい状況に陥った。
このため、行政組合は〇七年五月、地元の上伊那医師会へセンターの診療支援を要請。医師会が会員の開業医に呼び掛けたところ、三十人以上が集まった。病院と医師会は、開業医による診療時間を午後七-十時と決め、一日の報酬を五万円などとする協定を締結。一、二人の開業医がセンターで、軽症患者を中心に治療する診療支援が始まった。
開業医の支援に対する病院側の年間支出は約二千五百万円に上るが、伊那中央病院の薮田清和事務部長は「勤務医の負担が減り、非常にありがたい。今後、救急専従医が増えたとしても、医師会との協力体制を続けていきたい」と話す。
深刻だからこそ
上伊那地方の人口十万人当たりの医師数(〇六年)は百三十六・八人で、全国平均(二百十七・五人)を大きく下回っている。上伊那ではこうした現状に公的病院の勤務医、開業医ともに危機感を抱いていることが、両者のスムーズな連携につながっているとの指摘もある。センターを支援する内科医の秋城大司さん(42)=駒ケ根市=は「医師不足が深刻な状況だからこそ、勤務医と開業医が協力し合わなければいけない。体力が続く限り支援する」と力を込めた。
上伊那医師会は〇八年七月、駒ケ根市にある昭和伊南総合病院(三百床)の救急支援も始めた。同医師会の神山公秀会長(69)は「一次救急診療は開業医の責務。医師会による救急センターへの診療支援は、医師や医療機器など限られた医療資源を効率的に活用する一つの方法でもある」と話す。
公的病院の診療を医師会が全面的に支える取り組みは、全国各地で徐々に広がっている。徳島県内では、徳島市医師会が市の委託を受け、ふれあい健康館(沖浜二)で夜間休日急病診療所を運営する一方、〇八年三月からは市民病院の救急診療支援を始めた。県医師会も、公的病院の支援の在り方について本格的な協議を進めている。
全国的な勤務医不足に伴い、体制維持が難しくなってきている各地の救急医療。国は〇八年度から大学の医学部定員を増やすなど医師確保対策を進めるが、実際に現場で診療できるまでには十年近くかかる。開業医による積極的な支援が、地域の救急医療再建の重要な要素になってきている。(医療問題取材班)【写真説明】伊那中央病院の救急センターで診療に当たる上伊那医師会の開業医=長野県伊那市