生活苦足りぬ入学金 難関突破も進学断念の学生増える<「夜も眠れない」> 宮城県名取市の男性(24)は9日、東北大歯学部に合格した。ようやく手にした朗報にも、表情はさえない。「約30万円の入学資金が用意できない。合格無効になってしまうかと思うと夜も眠れない」 家の収入は、仙台市内のタクシー会社で働く父親(52)の稼ぎのみ。月14万円ほどだ。百貨店で働いていた母親(57)は2月に解雇された。 低所得世帯の子どもは大学や高校の授業料について、奨学金や減免を受けることができる。ただ、入学金を納めて在校資格を得ないと、それらの制度は申請さえできない場合がほとんどだ。 <父親がリストラ> 各県の社会福祉協議会には、低所得者に修学資金などを貸与する「生活福祉資金貸付制度」がある。ただ、宮城県では申請前に市町村の窓口ではね返されることが多い。 男性の父親も修学資金を借り入れるため、名取市社会福祉協議会に足を運んだ。市社協の担当者は保証人の資格などを理由に挙げ、「申請は通らない」と説明。その後も3回出向いたが、受理してもらえなかったという。 父親は数年前まで会社役員だった。安定した生活は「事実上のリストラ」で一変。昨年秋に今の仕事に就くまで、弁当店のアルバイトなどで食いつないできた。 男性は昨年、私立大医学部に合格したが、入学金が支払えないため入学を辞退。今年は予備校にも通わず、授業料などが安い国立大1本に絞って受験した。 <金の工面に奔走> 念願通りに合格したが、入学金は納付期限の3月中旬までに用意できなかった。大学には入学金の延納願いを申し出て、父親とともに金の工面に奔走している。 不況で進学を断念する生徒は全国的に増加している。進路情報を提供する民間会社が昨年11月、全国の高校約5400校に調査したところ、「進学を断念、進路変更した生徒が前年と比べて増えた」との回答は約22%に達した。 ◎貸し付け実績宮城極端に少額 岩手県は250件で2億8449万円に上る一方、宮城県は29件で1357万円。2007年度の生活福祉資金貸付制度の修学資金貸し付け実績は、東北6県で宮城が極端に少ない。 審査、貸し付けをしている宮城県社会福祉協議会は「奨学金などほかの制度を優先して使うよう、かつて国から指示があり、宮城はそれぞれの窓口で今も徹底している」と理由を説明する。 経済的な問題で、進学を断念する生徒が増えていることから厚生労働省は07年、各社協に制度の利用、促進を図るよう指示した。青森県社協や岩手県社協などは、制度を周知してもらう独自の取り組みを始めた。 生活困窮者を支援している宮城県生活と健康を守る会連合会の山脇武治事務局長は「宮城では、窓口で申請前に拒否されるケースが目立つ」と指摘。「入学資金に困っている人をしっかり救えるように制度運用を改めるべきだ」と訴えている。
2009年03月20日金曜日
|