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春秋制だっていいじゃないか

2009年3月24日

写真3月14日のJ1山形−名古屋は、激しい雪に見舞われた=戸村登撮影

写真2月に訪れたチェコ国境近くの旧東ドイツのクラブ。競技場は雪に見舞われ、係員が雪かきをしていた

 秋春制は難しい。

 Jリーグのシーズンを巡る議論が昨年から続いていたが、取材を進めれば進めるほど、そう感じていた。

 日本サッカー協会とJリーグの関係者で構成される将来構想委員会(委員長・鬼武Jリーグチェアマン)が「秋春制に移行しない」との結論を出し、一つの方向性が示された。秋春制移行を熱望する日本協会の犬飼会長の求めで検討は続いているが、将来構想委の結論に積雪地域の人たちはほっとしたことだと思う。

 欧州では国内リーグがある52カ国・地域のうち39が秋春制。その欧州の現状を探るために、2月にロシア、ドイツ、デンマークを訪ねた。2月下旬の紙面で詳しい内容を紹介したが、もう一度触れてみたい。

 厳冬のロシアは日本と同じ春秋制。秋春制移行を検討しているが、反対も多い。取材して印象的な言葉が二つあった。まずはロシア協会のソロキン専務理事の言葉。「シーズンが変わらないことがレベルに影響を与えるわけではない」。春秋制だからといってサッカーのレベルが低くなるわけではない、ということだ。もう一つはスパルタク・モスクワの広報担当者の言葉。「自分たちの生活に合わせたやり方をとるべきだ」。ロシアは冬が厳しいから無理して秋春制をやる必要がない、という考えだ。いずれも納得できる考え方だった。

 秋春制のドイツを訪れる地に選んだのは、冬の厳しさをどう乗り越えているか知りたかったからだ。ドイツの冬は予想以上に厳しかった。施設が整わない3部リーグは雪や凍結で延期が続いていた。現在、1部と2部のリーグのクラブには、競技場の芝の下に凍結などを防ぐ暖房システム(温水パイプを張り巡らせたもの)の設置が義務づけられているが、施設が整っていない時代は、1部リーグでも苦労が多かったという。練習場の芝も含め、凍結してピッチが硬くなり、腰を痛める選手が多かったとも聞いた。秋春制の主要国とはいえ、冬は大変なのだ。

 デンマークは91年に春秋制から秋春制に変わった。ただここは長い冬季中断がある。今季は12月初旬に中断し、例年より約1カ月近く早い3月初めに再開したが、それでも約3カ月の中断だ。関係者は「冬はピッチが悪いからやらない」とも言っていた。日本もそう割り切って長い冬季中断を設定すれば、秋春制は可能かもしれないが、現在の日本の過密日程では長い中断はとれない。

 欧州の春秋制の国・地域が秋春制にしたい理由はよくわかる。欧州サッカー連盟(UEFA)が秋春制の日程を組んでいるからだ。サッカー中堅国にはUEFAのカップ戦でクラブを強化し、レベルをあげるという目標がある。

 日本はUEFAの中にいるわけではない。所属するアジア連盟(AFC)に目を向けると、こちらの日程は基本的には春秋制。デンマークの関係者は「我々がUEFAに合わせるのは利点がある。日本も移行はいいことだが、まずはAFCの日程に合わせるべきではないか」と助言した。

 秋春制移行については、競技場の冬対策や日程調整など様々な問題があるが、欧州の取材を通してあらためて強く考えさせられたのは、冬をどう感じ、どのように過ごしているか、という点だった。

 ロシアでは零下10〜20度の中で取材。ドイツではチェコとの国境近くにある旧東ドイツのクラブを取材し、雪に見舞われた。デンマークでは吹雪だった。素直に冬は大変だと思った。

 東京にいると積雪地域の人たちが、どれほど大変なのかは、実際はわからない。住んでみて初めて冬の本当の厳しさがわかる。積雪地域の人とそうでない人とは冬のとらえ方に明らかに温度差がある。

 冬の厳しさを知る積雪地域の人から秋春制に賛成する声を取材ではほとんど聞いたことがない。「犬飼会長と対立したくないから、表向きは反対とはいえない」という人はいたが。一方で、秋春制に賛成している人は、ほとんどが関東から西の、厳しい雪や凍結の中で暮らしていない人たちだ。

 秋春制に移行するには最低でも雪や防寒対策をしっかりして競技場や練習場の設備を整える必要がある。でも設備が整ってもどうだろうか。競技場に行くまでの道路に大雪が積もることがある。水道が凍結し、普段の生活から苦労が多い北の地域の人たちは冬と戦っている。サッカーどころではない。そう思うのは自然ではないか。

 3月14日のJ1山形―名古屋戦を取材して、秋春制の難しさをあらためて痛感した。後半から雪がひどくなり、観客は雪に当たり、寒さに震えながら試合をみていた。競技場全体に屋根がかかっていたら観客は雪から少しは逃れることができただろうが、雪で視界が悪くなった選手たちの大変さは変わりはないだろう。安全面から考えても危険だ。通路で観客がすべってけがをする場合もある。今回取材したドイツの3部リーグでは、競技場の通路が凍結して安全が確保できない、との理由もあげて試合を延期するクラブがあった。

 冬は大変だ。だから、春秋制だっていいじゃないか。私はそう思う。

 現在の春秋制で問題とされていること。例えば、シーズンオフの休み期間。正月に決勝がある天皇杯の日程をずらして12月前までに終わらせれば、各チームの休み期間は、ばらばらにならない。そもそもカップ戦を二つ行う必要があるのか。欧州ではカップ戦が一つのところが多い。

 秋春制移行を考える前に、まずは春秋制の中でどう改革して日本のサッカーを良くしていくかを考えるべきだと思う。(上嶋紀雄)

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