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【社説】

温暖化対策目標 前向きな政治判断を

2009年3月30日

 二〇二〇年までに国内でどれだけ温室効果ガスを減らすか、複数の中期目標案が示された。省エネを経済成長に結び付け、温暖化の巨大なリスク回避に向かうには、前向きな政治判断が必要だ。

 国際社会は年末にデンマークで開かれる気候変動枠組み条約コペンハーゲン会議(COP15)で、京都議定書の期限が切れる一三年以降も温室効果ガス削減を続けるためのルール(ポスト京都)を決めることで合意した。

 二十九日には、ドイツのボンで条約の特別作業部会が開幕し、ポスト京都の交渉が再開された。

 交渉再開を目前に首相直轄の中期目標検討委員会が、経済産業省や研究機関の分析を基に示した五案は、一九九〇年比4%増から25%減まで大きな幅がある。

 現在既に実行中の対策を続けるだけなら4%増えてしまうが、企業や家庭に省エネ機器を普及させ、企業活動にある種の規制を加えた場合には、日本独自で25%の削減が可能という。

 検討委は「25%減」を選んだ場合、国内総生産(GDP)を年率で最大0・5%程度押し下げるとする試算や、失業者を増やし、世帯当たりの可処分所得を押し下げるという分析結果も提示した。

 目標案に大きな幅があるのは、「野心的数値」を掲げることに産業界から強い反発があるからだ。

 政府は「5−15%減」を「着地点」と考えているらしい。だが、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」のシナリオに基づく「二〇二〇年までに一九九〇年比25−40%減」は、特別作業部会の議長が「もはや対案はない」と言い切るほどの世界基準だ。日本の消極的な折衷案を国際社会が受け入れるとは思えない。

 政府は国民の意見を聞きながら、六月までに中期目標を決める方針だ。その際、このまま温暖化が進行した場合のリスクや損失も、具体的に提示して生活者の判断材料にすべきである。

 ひと口に「産業界の反発」と言うものの、省エネのさらなる推進を商機ととらえ、自社に高い削減目標を課す企業も増えている。「緑の特需」は、麻生内閣が唱える成長戦略の柱ではないか。

 GDPへの影響を抑えるだけにとどまらず、温暖化対策を新たな経済成長に結び付けるための戦略と仕組みを築くのは、政治の重要な役割だ。そのためにはまず、「ポスト京都」への野心と意欲を数値で示さなければならない。

 

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