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社説2 地に落ちた農水省への信頼(3/30)

 農林水産省という役所は一体どうなっているのか。休職の許可を得ないで組合活動に専念する「ヤミ専従」疑惑が浮上したかと思えば、今度は関連文書を改ざんしたとして担当である秘書課長らが更迭された。

 ヤミ専従疑惑は内部告発を受けて昨年4月に同省が実施した調査で発覚した。各地の組合役員の1割に上る人数だった。ちょうど、社会保険庁職員のヤミ専従が問題になっていた時期である。

 本来なら事実関係をさらに調べて処分すべきはずだ。しかし、秘書課長らは組合に事前通告したうえで2度も再調査し、最終的にヤミ専従はないと結論を下した。当時、各省庁や自治体に実態調査を求めていた総務省にもそう報告していた。

 加えて、一部報道機関の取材には調査文書を改ざんしてまで事実を隠した。これでは組織ぐるみの隠ぺい工作と疑われても仕方あるまい。

 農水官僚の8割は農政事務所など地方の出先機関の職員である。昨年9月に発覚した事故米問題では、不正転売していた業者を事務所職員が繰り返し検査しながら、見過ごしていたことがわかっている。

 政府の地方分権改革推進委員会は昨年末、出先機関改革で農政事務所の廃止を勧告している。事故米事件に続いてヤミ専従疑惑が表ざたになっては組織がもたない、と課長らは判断したのだろう。

 ヤミ専従は国家公務員法で禁じられている。公務員の給与は税金から払うのだから当然だ。

 まずは、外部の専門家の協力も得て早期に実態を調べ、事実ならば関係者を処分し、損害額の返還を求める必要がある。隠ぺいに関与したのが本当に秘書課長らだけなのかも明らかにすべきだ。

 一連の問題の根底には、国民の視線を軽視しがちな農水省そのものの体質もあるのだろう。農業団体や族議員とのつながりが強く、生産者優先、省益重視の発想から抜け切れない。特に、旧食糧事務所などが母体になっている農政事務所は親方日の丸意識が根強いといわれている。

 今は石破茂農相が掲げる農政改革に取り組み始めた大事な時期である。徹底的にウミを出さないと前に進めない。

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