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社説:ウォール街非難 対決では再生できない

 4月2日にロンドンで主要20カ国・地域の首脳会議が開かれる。世界経済再生のため協調行動をとれるかが焦点だ。ただ、国家間の協調の前に問われているものがある。それぞれの国内における協調である。

 そこで気がかりなのが最近の米国内の対決ムードだ。保険大手AIGが公的資金で救済されながら高額の賞与を支払っていたことが表面化し、国民の怒りが爆発した。ワシントンでは下院が90%の税率で事実上の賞与奪還を目指す法案をスピード可決し、ウォール街の政治不信に拍車をかけた。一方AIGには幹部やその家族の殺害をにおわす脅迫メールが届き、市民がAIG幹部宅に押しかけ賞与問題を糾弾するバスツアーまで組まれるなど、個人を標的にした嫌がらせも伝えられている。

 AIGや金融界に対する批判がいけないというのではない。危機の検証や責任追及はきちんと行われるべきだ。心配なのは、ウォール街やそれを救済した政府への非難が感情的にエスカレートし、社会の中で対立が深まること、そしてそれによる経済への悪影響である。

 米財務省が金融機関から不良資産を買い取る構想の詳細を発表した。銀行が腐った資産を抱えたままでは、貸し出し機能が正常化しないためである。その機能の正常化には金融機関の資本増強が欠かせない。公的資金の追加投入は恐らく避けられず、一部の金融機関は国有化がいずれ必要になるだろう。

 しかし、「議会対ウォール街」「市民対ウォール街」「議会対政権」と対立は深まり、対策を冷静に正面から議論できる環境にない。財務省構想が、最初に投入する公的資金を極力抑え、国民負担を不透明な形で将来に回す内容になったことと、この対立ムードは無縁ではないはずである。不幸なことだ。

 AIGの賞与を真っ先に非難したのはオバマ大統領の誤算だった。結果として世間の関心が賞与問題に集中し、「カネ返せコール」に火がついた。一方議会は、AIG問題や金融危機と密接に関係する規制に責任を負う当事者だ。他者批判に徹していいわけがない。そして何より金融機関は、国民の信頼を得る努力を倍増させねばならない。国民感情を逆なでする言動は自殺行為である。

 「我々全員が同じ危機の中にあること、そしてみんなが互いに対し、国家に対し責任を負っているということ。それを理解して初めて経済は動く」。AIG騒動を収束させたいオバマ大統領が会見で全米に呼びかけた。議員も金融機関も国民も、非難合戦や対決に明け暮れていては、米経済も世界経済も立ち直らないということに早く気づいてほしい。

毎日新聞 2009年3月30日 東京朝刊

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