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米アフガン戦略―世界も知恵を出し合おう 

 「テロとの戦い」の力点をアフガニスタンに移すと言明していたオバマ米大統領が、包括的なアフガン戦略を発表した。

 アフガニスタンだけでなく、隣国のパキスタンも一体として対象にするという。国際テロ組織アルカイダやイスラム過激派タリバーンの勢力が、国境地帯を拠点にしているからだ。

 さらに大統領は「過激主義との戦いは、銃弾や爆弾だけでは勝てない」と述べ、非軍事の面で大規模な支援を打ち出した。

 具体的には(1)アフガン国軍と警察の訓練のため米軍4千人を派遣(2)農業や教育などの支援に数百人の文民を派遣(3)パキスタンに毎年15億ドルずつ5年間にわたって経済支援する、などだ。

 就任直後には、1万7千人の米軍増派を発表している。軍事面でのてこ入れと並行して、民生面からアフガニスタンの国家再建を支援する。そんな2本柱を考えているようだ。

 外交面でも手をうっていく。まず、米国とアフガニスタン、パキスタンの3国で連携を強めるための定期協議をもつ。さらに、国連を軸に関係国の集まり「コンタクトグループ」をつくり、調整の場としていく。

 アフガニスタンの現状を見る時、軍事力だけで勝利は得られないことは、誰の目にも明らかだ。タリバーン勢力との戦いや交渉に、パキスタンの影響力は無視できない。

 軍事、民生、外交を組み合わせた新戦略の方向性は評価できる。カルザイ大統領も、パキスタンのザルダリ大統領も歓迎しているという。

 ただ、それをどう実行し、国家再建や国際テロ組織の根絶に結びつけていくか、具体化の作業が極めて困難に満ちたものであることは間違いない。

 民生支援の強化といっても、治安が回復しなければ援助を進めるのは難しい。でも、戦況は悪化し、誤爆などの犠牲者が増え、欧米への反感が膨らんでいる。治安対策を強化しようにも、欧州諸国は兵力の増派に消極的だ。

 また、パキスタン、アフガニスタンとも政権は安定せず、汚職や腐敗が指摘され続ける。アフガニスタンでは8月に大統領選挙が予定されているが、現状では選挙の実施も危ぶまれている。政権が揺らいでは、せっかくの支援も効果があがるまい。

 「米国だけの問題ではない」というオバマ大統領の指摘は正論だ。明日には国際的な協力の枠組みを話し合う会議がオランダで開かれる。今週、G20で訪欧するオバマ大統領は、北大西洋条約機構(NATO)諸国やロシア、中国の首脳と会談する。日本も来月にはパキスタン支援の国際会議を開く。

 新戦略をたたき台とし、各国が知恵を出し合い、アフガニスタンの平和構築に貢献していかねばならない。

受動喫煙条例―神奈川の一歩を全国に

 学校から飲食店まで、公共的な施設を対象にした全国初の「受動喫煙防止条例」が神奈川県で成立した。他人のたばこの煙を吸わされることによる健康被害を防ぐのが目的だ。

 昨年発表された当初案は、不特定多数が利用する施設の全面禁煙をめざしていた。たばこ業界や飲食店業界などの強い反対で分煙や例外が広く認められ、大きく後退したことは否めない。

 一方で、違反には罰則が設けられた。国の健康増進法では、受動喫煙の防止は努力義務にとどまる。条例は吸いにくい環境づくりに役立つだろう。

 松沢成文知事は「国が動かないなら神奈川から。その第一歩は踏み出せたと思う」と話す。さらに2歩、3歩と進めてほしい。

 条例によると、学校や官公庁などは喫煙所を除き、すべて禁煙。飲食店やホテルは禁煙か分煙かを選ぶ。違反すると施設の管理者が過料2万円、喫煙者が2千円。ただし、飲食店などへの罰則の適用は来年4月の条例施行の1年後だ。

 パチンコ店などの風俗営業法が適用される施設は、禁煙か分煙にすることが努力義務となった。一定規模以下の飲食店やホテルも同じ扱いだ。

 だが、日本の喫煙率は世界的に高いとはいえ、成人4人のうち3人は吸わず、喫煙者の7割はできればやめたいと思っている。神奈川県民の89%は喫煙規制を支持している。飲食店などの経営者はこの現実を直視してほしい。

 たばこは、吸う人だけでなく、周囲の人の健康も損なう。肺がんのほか、心筋梗塞(こうそく)などの原因にもなる。子どもではさらに深刻で、乳幼児突然死症候群や発育障害などにもつながり、静かな幼児虐待といわれるほどだ。

 国立がんセンターの推計によれば、全国で毎年2万〜3万人もの人が受動喫煙による病気で死亡している。

 日本も批准した世界保健機関(WHO)のたばこ規制枠組み条約は、受動喫煙による健康被害を防ぐために、公共の屋内空間の禁煙を求め、そのための立法措置を求めている。

 受動喫煙はわずかな量でも危険。分煙では健康は守れない、というのがWHOの見解だ。喫煙室や空気清浄器は、高価な割に効果が薄い。

 これに従い、世界各国で屋内の禁煙化が進んでいる。煙が立ちこめていたアイルランドのパブも今や禁煙だ。

 日本でも首都圏のJR駅のホームは4月から全面禁煙となる。全国のタクシーも7割以上が禁煙車だ。民間では大きな変化が起きている。

 厚生労働省の検討会も今月、受動喫煙の害を明確に認め、公共空間は原則全面禁煙とする方向性を打ち出した。

 立法措置を進めるべき段階だ。全国の自治体はぜひ神奈川県に続き、国会を動かす力となってほしい。

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