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01/09/2008

corporate manslaughter

 日本産科婦人科学会常務理事・昭和大学産婦人科教授の岡井崇氏のインタビューが日経メディカルのサイトに掲載されています。

 まず,そのタイトルは,「まず刑罰ありきでは医療は退化する」となっています。インタビュー記事のタイトルは通常メディア側がつけるので岡井先生が悪いわけではないのですが,ミスリーディングなタイトルです。何しろ,平成11年から16年の間,正式起訴はわずか20件,略式起訴を含めても79件しかない我が国の医療過誤刑事の実務が「まず刑罰ありき」とはほど遠いものであることは明らかです。

 それはともかく,岡井先生がこのインタビュー記事の中で,

 例えば、Aという薬剤を投与しなければいけないのに、Bという薬剤を投与してしまったといった単純なミスは、警察に通知しなければならない事例になるでしょう。ただ、この事故の背景には、作用は異なるが名称の似た薬剤が一緒に保管されていたため、医師が間違えてしまったといったシステム的な問題もあると考えられます。

 そのような場合は、医師個人を刑事罰に問うことよりも、システムの改善の方が重要となります。また、個人を罰してもこういうミスが減少しないことは分かっていることですので、日本産科婦人科学会では「著しく逸脱した医療」を本当に悪質なものに絞った表現にしてほしいと要望しています。

と述べられています。しかし,医師個人を刑事罰に問いつつ,医療機関側にシステムの改善を求めることは可能ですし,医師個人を刑事罰に問わなければシステムが改善するという保証はありません。むしろ,医療過誤について民事責任しか追及しないこととすると,「A」という対策をとると「B」という医療行為に関連して患者の死亡事故の発生確率をα%引き下げるということが可能であることがわかっていた場合に,「A」という対策を取るのに要するコストが,「B」という医療行為を取り扱う医療機関が「A」という対策を講じ患者の死亡確率をα%引き下げることにより医師賠償責任保険の保険料率の引き下げられるであろう額よりも大きい場合には,医療機関側には,「A」という対策を取ってシステムを改善し死亡事故の発生確率を低下させる経済的なインセンティブを有しないということになります。しかも,「A」という対策を講ずることにより死亡事故の発生確率をα%引き下げるという効果は,医療機関ごとにそこでの死亡事故発生率によって保険料率が決定しているのではない現状の保険実務においては,自分たちだけがコストを負担して「A」という対策を講じても保険料率の引き下げという効果を生まない反面,自分たちだけが「A」という対策を講じなかった場合,「A」という対策を講ずるのに必要なコストをかけることなく保険料率の引き下げという経済的な利益を受けることができます。すると,医療機関においては,一種の囚人のパラドックスが発生し,死亡事故の発生確率をα%引き下げるという効果のある「A」という対策はよりいっそう講じられにくくなります。したがって,医師個人に刑事罰を科さないとする制度を実現しても,それだけでは,システムの改善による死亡事故の減少は見込めないということが言えます。

 岡井先生のような論の進め方をする場合には,医療機関の側にシステムを改善させる強い動機付けを与えるシステムの導入をも並行して提案していく必要があります。例えば,既にイギリス等で導入されている「corporate manslaughter」類似の概念を導入して,医療ミスによる死亡事故等の発生確率を低下させるために必要な対策を医療機関側が講じなかった場合には,そのために患者の死亡に繋がる医療ミスが発生した際に医療機関側に巨額の罰金刑を科すこととする等の立法提言などがあり得るところです。

 やはり,医療側のうち,刑事罰の医師への適用に反対し又はその範囲を著しく制限せよといっているグループは,法的概念についてアドバイスをする適切なブレーンを欠いているように思われてなりません。

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