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30/08/2008

免責特権を付与せよとの立法要求を支える立法事実はありやなしや

 「医師に刑事訴訟リスクを負わせると医師が逃散し医療崩壊を招くので,医師に刑事免責特権を与えるべきである」という立法提言を支える立法事実はあるのでしょうか。

 まず,そもそも医療活動は刑事訴訟リスクが高いのか否かが示される必要があります。平成17年度の運転免許保有者数は,原付免許のみ保有者等を含めて,78,798,821人です。これは,ペーパードライバーやごく希にしか自動車を運転しない人をも含んだ数字です。これに対して,交通事故関係で平成17年に業務上過失致死傷罪で公判請求されたのは,8,362人,免許保有者の0.0106%です。一方,平成11年〜16年の医師の人数は概ね平均26万人で,この間公判請求がなされたのは20件ということですから,年平均でいうと,公判請求されたのは概ね全体の0.0015%ということになります。なお,略式起訴まで含めた業務上過失致死傷罪での年間訴追率は,運転免許保有者が0.11%,医師が0.0051%です。この数値を見る限り,医師が業務上過失致死罪で刑事訴追される危険はゼロではないものの,むしろ,その危険は相当低いということができます。

 また,医師の数自体は近年においても増加傾向にありますし,そもそも医師の数の増加率自体は医学部の定員をどうするのかにより概ね定まっていきます(現在でも医学部の競争倍率は低くなく,多くの医学部は相応の偏差値がないと正規に入学できない状況にあります。したがって,医学部の定員を増やせば,これまで以上に,医師を目指して医学部に入学してくることが想定されます。)。したがって,刑事訴訟リスクと医師の数の問題は,診療科目間の刑事訴訟リスクの違いが診療科目ごとの増減率の違いの原因となっているかという問題に帰結することになります。しかしながら,近時人数が中期的に減少傾向にある診療科目,例えば産婦人科に関して特に医師の刑事訴追リスクが高いというデータは提示されていません。これに対しては,科学的な思考能力があれば、そんなnの少ないもの、捜したところで「統計的有意を示す根拠を見つけることは困難で決定不可能である」ということくらいう常考。として,診療科目ごとの民事訴訟の事件数データを提示するがおり,これに賛意を示す元検察官もおるようですが,中期的に減少傾向にある診療科目の一つにおいて民事訴訟リスクが高いという事実が,医師の診療科目間の偏在を是正する手段として医師に刑事免責を与えるべきとする立法提言を何ら下支えしないことは,普通の知性で理解可能です。仮に民事訴訟リスクの高さが当該診療科目に従事する医師の減少を招いているとしても,それは医師に刑事免責特権を付与することによっては解決されないからです。

 このようにみていくと,「医師に刑事訴訟リスクを負わせると医師が逃散し医療崩壊を招くので,医師に刑事免責特権を与えるべきである」という立法提言を支える立法事実が十分に存在しているとは言い難いように思います。

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