北朝鮮から中国へ逃れる脱北者が大きく減っている。国境を接する中国吉林省延辺朝鮮族自治州延吉。脱北ビジネス最大の拠点だが、脱北者を手引きし、暗躍してきたブローカーらの動きは今、止まったまま。中朝国交樹立60周年の今年、国境警備が強化されたほか、金融危機などの影響で韓国から彼らへ渡るカネが途絶えたためだ。ただ、ブローカーに支えられた脱北は「必要悪」でもある。国境の向こうで困窮しきった人々が滞る。【延吉で西岡省二】
延吉の喫茶店。50歳代男性の中国人朝鮮族ブローカーがたばこの煙を吐き出した。「北朝鮮のミサイル発射? 関心ないよ。それより客がいないんだ」。「客」とは脱出を試みる北朝鮮住民。地元の公安関係者も「北朝鮮から逃れて来た者はここ1年、大きく減った」と証言する。
男性は中国の元軍人。国境の図們江(朝鮮語名・豆満江(トゥマンガン))を渡った脱北者を延吉のアパートにあるアジトへ移す役割だ。男性によると(1)北朝鮮側の協力者と連携し、国境越えを手引きする越境班(2)男性ら輸送班(3)アジトの管理班(4)北京などへの遠距離輸送班--などがある。脱北者が韓国亡命に成功した場合、謝礼に相当する手数料は主に韓国の支援団体が提供する。
脱北が減ったのは韓国側の事情が大きい。「中国のブローカーに渡る手数料は1人平均10万元(約140万円)かかる」(支援団体関係者)とされる。男性の依頼主は韓国の宗教関連団体で、企業や個人寄付も有力資金源だったが「韓国経済が冷え込んで寄付が激減し、カネの流れが悪くなった」と付け加えた。
また、韓国政府は脱北者へ支給される「定着支援金」が支援団体を経由し、手数料支払いで消える例が多いとみる。政府は脱北者を対象にした定住教育で、手数料を支払わないよう指導を強化する。
ブローカーの手引きなしに脱北者は国境を渡れない。男性は「いつでも動く。だが、カネが必要だ」と話す。
毎日新聞 2009年3月30日 2時30分(最終更新 3月30日 2時30分)