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大都市圏以外の高速道路で「土日・祝日は上限1千円」への値下げが、きのう始まった。ルートや距離によっては料金が10分の1以下になる区間もあるので、どの路線も前年より交通量が大幅に伸びた。4〜5割増えた区間も珍しくなかった。行楽地は人出が増えて盛り上がったようだ。
値下げに必要なETC需要も急増している。利用者への反響は大きく、景気刺激効果を喜ぶ声も少なくない。
だが、ここは冷静に政策のプラスとマイナスを考えたい。国民は値下げの恩恵を受けるだけでなく、自分の懐が痛むことも知る必要がある。
高速料金の値下げにつぎこまれることが決まっている税金は、10年間に総額3兆円。これだけで国民1人当たりの負担は2万4千円にのぼる。
さらに、当面は2年間とされている「土日祝1千円」を3年目以降も続けるとすると、国民は1人当たり毎年2千円ずつ負担を増やさなければならない。納税者の立場になってみても、高速値下げに「それだけの価値がある」と支持できるだろうか。
もともと高速料金の値下げ案は、昨夏にかけての超原油高のなかで浮上した。その後は原油価格が大きく下がり、それにつれてガソリン価格もかなり安くなった。原油高対策の必要性は薄れているのだ。
政府・与党は昨秋のリーマン・ショック以降、値下げの目的を景気対策だと説明するようになった。もちろん経済危機下で対策は必要だ。だが、不況は長期化する恐れが強いのだから、一時的に刺激効果が出るだけでは不十分だ。苦しい財政の中から巨額の資金を出す以上は、将来的にも役に立つ賢い投資が求められる。
その点、高速値下げは二つの意味で疑問がある。
第1に、地球温暖化対策と矛盾することだ。マイカーの行楽客を増やせば、それだけ鉄道やフェリーなどの需要が食われる。自動車より温室効果ガスが少ない鉄道や船へ誘導することが国際的な目標になっているのに、逆方向の政策といわれても仕方ない。
第2に、道路公団を民営化した効果をそぐ恐れがある。05年に民営化した高速道路6社は、旧道路公団時代の野放図な道路建設をやめるとともに、経営努力でコストを下げ、料金引き下げをめざすはずだった。なし崩し的に道路へ税金を投入することは、そういう経営努力に水を差すことになる。
たいへんな経済危機に直面した恐怖から、目先の刺激効果が期待できそうな対策なら、何でもありで構わない。そんな気持ちが政府・与党にも、国民にも強まっているように見える。
しかし、こんな時だからこそ「賢い政策」を選ばねばならない。高速値下げは、その点で問題が多すぎる。
日本テレビが、報道番組「真相報道バンキシャ!」の誤報について、社内調査の結果を公表した。
明らかになったのは、あまりにずさんな番組の作り方だ。
自治体の不正経理を取り上げるため番組スタッフは昨年11月、取材協力者を募集するインターネットのサイトで情報提供を呼びかけた。「謝礼 応相談」との条件を出した。
そこに応募した男が番組で、岐阜県の裏金作りにかかわったと、うその証言をした。十分な裏付け取材はされず、岐阜県庁に対して具体的な質問もぶつけていなかった。
直接取材をしたのは、報道記者の経験がない若い制作会社のスタッフ。日本テレビ社員のプロデューサーらも、必要な指示をしなかった。
野球中継で結果として日延べになったが、当初は取材を始めてわずか1週間でこの番組を放送する予定だった。独自の調査が必要なタイプの報道としては、あまりに急いだ日程だ。
虚偽証言をした男が、4年前にもやはり募集サイトを通じて「バンキシャ!」に出演し、1万円の謝礼を受け取っていたことも分かった。
報道がバラエティー番組に近くなって、バラエティー出身のスタッフが増え、取材の詰めの甘さにつながった面もあるのではないか。日本テレビの番組審議会は、そうも指摘している。
報道番組を名乗る「バンキシャ!」は、20%近い高視聴率を誇る日本テレビの看板番組の一つだ。その取材態勢が、これほど危ういものだった。
これではテレビ報道全体への信頼を揺るがしかねない。
経験や教育が不足するスタッフ。時間にせかされた取材。視聴率競争のために強いインパクトが求められる番組作り。誤報への落とし穴は、あちこちに口をあけている。
この構図は、他の民放局も無縁ではない。「バンキシャ!」に出た男が、テレビ朝日にも05年に2回出演していたことが分かった。同社は報道番組での募集サイトの使用を原則禁止した。TBSでは男が出演した記録は見つからなかったが、井上弘社長は「対岸の火事とは思っていない」と話す。
CM収入の落ち込みで、番組制作費が軒並み削減されている。そんな逆風の中で、慎重に取材を重ねた報道やドキュメンタリーに取り組む民放人は、キー局、地方局、制作会社に限らず決して少なくない。テレビ報道に対する視聴者の信頼が揺らいだのでは、そうした努力も報われなくなる。
ニュースを分かりやすく、おもしろく見せる工夫はいいが、厳密な取材が基礎であることは言うまでもない。日本テレビは報道への信頼を傷つけた責任の重さを改めてかみしめ、詳しい検証と再発防止策を示さねばならない。