物流業界ニュース
高速道路無料化問題を民主党の赤松広隆議員に聞く
「無料化は東北道などで実験的に開始、キチッと検証しながら進める」
「フェリーや鉄道などに対しては設備面で援助」「暫定税率は廃止する」
高速道路料金の引下げが政策的に進んでいる。こうした流れのキッカケとなったのは、民主党がマニフェストで高速道路料金の無料化を打ち出してからだといわれているが、こうした問題にも詳しい赤松広隆民主党選挙対策委員長に詳しく聞いてみることにした(3月3日、民主党本部で)。
―― 民主党の高速道路を無料化する、という政策は広く知られてきていますが、具体的な進め方、スキームなどについて改めて詳しく…
赤松 民主党のマニフェストは(1)直ちにやるもの(2)法律改正が必要なもの(3)農業の個別補償制度のように長期間かかるようなものに分けられます。例えば、揮発油税や軽油引取税の暫定税率廃止などは直ちに実行できますが、高速道路の無料化については例えば料金所で働いている方々の雇用をどうするのかなど様々な問題が派生してきます。民主党は働く方々の立場に立つ政党ですので、こうした方々を例えば道路の維持管理を行うような部門にシフトさせていただくとか、あるいは他の民間会社に移っていただくなどの対策を考えなければなりません。また、多くの方々から「無料化してほしいが、一番の心配は混雑すること。せっかくの高速道路が混雑で低速道路≠ノなるのでは本末転倒」という声もいただいています。特に緑ナンバーの事業者にとっては速く走れなければ大問題でしょう。このため首都高、阪神高速、名古屋高速など大都市圏の部分は無料化の対象から外しています。また、無料化も東名、名神など一番混んでいるところから実施するのではなく、東北道などいくつかの区間で実験的に開始し、どれぐらいクルマが増えるのかを検証するとともに、さきほどの雇用対策なども道筋をつけ、問題なければ進むという形をとることを考えています。乗用車の土日祝日一律1000円というのも近くはじまります。トラックが対象になっていないのは実にけしからんと思いますが、とにかく2年間はやるということですので、この結果もみていきたいと思います。
―― トラックは昼間の3割引だけです。
赤松 土日一律料金にトラック、大型を含めるといった微調整は可能ですが、こうした割引はETCのシステムを変えなきゃならないのでパッパ、パッパ切替えるわけにはいかないと聞いています。仮に政権をとっても、こうした負の遺産は引き継いでいかなければなりません。自民党政権でやったことなんで知らない、というわけにはいきませんから。ただ「無料化は不安だ」という方々に大前提として、ぜひ覚えておいていただきたいことは、償却がすんだら高速道路料金はタダにすると法律に書いてあるんです。プール制を採用して、永久に料金をとり続ける方式に変えてしまったのは自民党なんです。法の精神を考えれば、そのことの方が大問題ではないでしょうか。暫定税率も同じような問題ですよね。2年間の約束が34年間続いているんですから。道路は外国をみてもタダです。それを元に戻そう、ということなんです。
―― とにかく段階的にキチッ、キチッと検証しながら進めていく、と。
赤松 民主党が政権をとったらすぐにタダにしたいのは山々なんですが、実際は難しい。今は深夜割引にならないとコストを担いきれないということで、トラックドライバーの方々はわざわざ料金所の前で待って、時間がきたらスッと入るようなことをしなければなりません。トラック業界の経営は厳しいと思いますよ。9割は赤字なんじゃないですか。物流は人間の体でいえば血管なんですから、血液がスムーズに流れるような政策をとるのは当たり前だと思います。これはトラック業界のためだけではありません。トラックは、あらゆる物資を運んで暮らしと産業を支えているのです。経済全体に与える影響も大きいんです。
―― 無料化案に対して「毎年、5000億円ぐらいかかっている補修費をどうするのか」という疑問を呈する方もいますが…。
赤松 元々、一般国道は通行料金をとっていませんが、国道維持事務所があって、穴があいたら埋めてくれますし、ガードレールも曲がったら直してくれます。高速道路も国が国道として補修していけばいいじゃありませんか。それに関わる費用ぐらい、ムダをなくせばすぐに捻出できますよ。高速道路に関わるファミリー企業の問題が指摘されましたが、そうした子会社、孫会社などを全廃し、サービスエリアに出店しているようなところから使用料を直接とるようにすれば、あっという間に補修費ぐらいまかなえると思います。
―― これは別の観点からの質問なんですが、国は温暖化対策としてモーダルシフト政策を進めています。高速道路の無料化はモーダルシフト政策を逆行させるもので、実際、フェリーやJR貨物も貨物量が大幅に減っています。ここらあたりとの整合性は?
赤松 元々、鉄道貨物輸送はコストだけをいえばトラックにかないません。トヨタも鉄道で岩手まで部品を運んでいますが、それは今の企業は環境を大切にしているかどうかが問われるようになってきているからだと思います。だから仮にコスト高となっていても幹線に鉄道を利用しようという動きが広がっていて、輸出でヨーロッパに自動車を送るのも船ではなくシベリア鉄道を使う動きも出ています。そうした環境を大切しようという原点は忘れてはいけないと思いますが、例えば鉄道はトラックと比較すると「料金は高くスピードは遅い、でも環境にはいい」というのが現状だと思います。そのスピードの問題でいえば名古屋あたりがネックになっています。その部分だけでも貨物専用線をつくれば、スピードは随分、改善されるのではないでしょうか。モーダルシフトを進めるというのであれば、そうしたインフラを整備しなければいけないと思います。JRも民間になったんだから、民間の責任でやれというのはムリです。
―― 国の政策として進めるのであれば、インフラ整備も含めてもっと本格的に応援しろ、と。
赤松 本格的にやっていきたいとは思います。ただ、予算の問題は実際、ムズかしくなるとは思いますが…。また、トラックとのコストの差を埋めるために補助金を出すというわけにはいかないと思います。フェリーなど大型船が使いやすいように港湾を整備したり、コンテナ専用の大深水バースを整備することなどは可能ですが、経常費を補助してトラックと競争させるというのはいかがなものかと思います。
―― フランスなどでは鉄道コンテナに補助していますが…。
赤松 フランスというのはだいたいそういう傾向なんです。農業に対しても補助していますし。ただ運賃の競争のために補助金を、というのは日本では難しい。しかも国内での競争ですしね。
―― 最後に揮発油税や軽油引取税の暫定税率の廃止と交付金の話を伺いたいと思います。トラック協会は国交省の手足となって、400人ぐらいの職員が全国のトラック事業者を巡回指導するなどの適正化事業を行っています。基本的に交付金の制度がスタートしたのは、暫定税率がスタートしたからなのですが…。
赤松 私はトラック協会の幹部の方々と様々な地方で本音ベースの話をしていますが、会長、副会長など事業者の方たちに「軽油引取税の暫定税率分17.1円が下がるのと、交付金がなくなるのを選べといわれたら、どっちをとりますか?」と聞くと、圧倒的に前者です。お世辞を言うわけではありませんが、全ト協にも優秀な方が国交省からきています。そうした本当に必要な方は会費を増やしてでも、仕事をやってもらえばいい。そちらの方が多くの会員の方々も納得するでしょう。また、安全講習などの事業はどうしてくれるんだ、といわれれば、そうした必要な事業については国から補助金を出せばいいと思います。
―― それでも、民主党政権になるのは不安だ…という人が少なからずいるのも事実だとは思いますが…。
赤松 我々は別に革命を起こすわけではありません。負の遺産も良い遺産も受け継いでいきます。自民党がやったんだから知らないよとは言いません。悪いものは少しずついいものに変えていくだけです。幸い民主党からは自民党から来た人もいっぱいいるし、大臣経験者もいる。財務、通産、総務省などから若い官僚の人たちも入っていますし、行政の仕組みを理解している人たちはたくさんいます。いま、世論調査で「次の選挙でどっちに投票しますか」と質問すると圧倒的に民主党が多いんです。しかし支持政党では自民党の方が高い。つまり元々は自民党支持者だけど、天下りや無駄遣い構造は自民党では変わらないと思っているんだと思います。我々は街頭で「1回やらせてみてください。もしマニフェストで約束したことができなかったり、期待はずれだったから、民主主義なのでまた変えればいいじゃないですか」と訴えてきているんですが、そうした訴えが徐々に浸透してきているのではないかと感じています。
カーゴニュース3月10日号