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きょうの社説 2009年3月29日
◎正念場の新幹線対策 逆風押し返すスピード感を
北陸新幹線開業へ向け、石川県がアクションプラン「STEP21」を決定するととも
に、石川、富山県で新幹線シフトの組織再編が行われ、開業効果を最大限に引き出す新年度からの実施体制がほぼ固まった。先ごろ発表された公示地価の下落ぶりが示すように、新幹線開業の追い風は不況の影響 で失速し、一服感もみられる。今後の取り組みには、逆風下でも決して足踏みせず、むしろ押し返すくらいの力強さとスピード感がいる。これからがまさに正念場である。 急激な景気悪化を受け、どの自治体も地域経済を立て直すことに必死である。各地で地 域資源の掘り起こしや産業支援、観光地づくりなどをテコ入れし始めた。とりわけ観光誘客については高速道路料金引き下げにより、地域間の綱引きが早くも過熱している。うかうかしていると新幹線開業の優位性も薄らいでしまう、そうした厳しい競争時代のなかで新幹線対策が新たなスタート地点に立つことを認識したい。 石川県は「STEP21」で「観光誘客拡大」「魅力ある交流基盤づくり」「産業・地 域づくり」の三つの基本戦略を掲げた。富山県は二〇一五年度までの総合計画「元気とやま創造計画」を推進する。それぞれ網羅的に施策が盛り込まれているが、優先度を見極め、施策の合わせ技で相乗効果を発揮したい。 政府が今後具体化させる追加経済対策では、整備新幹線の建設前倒し案も浮上している 。県の施策もできるものは早急に着手し、可能な限り前倒しする積極さが求められる。高速道路料金引き下げに伴う誘客は新幹線開業の前哨戦という位置づけで必要な手立てを講じ、その効果を確実にたぐり寄せてほしい。 県の組織改正では、石川県が新幹線・交通対策監室を新設し、富山県は総合交通政策室 を新たに設けたほか、観光・地域振興局を知事直属の独立した局とした。それぞれの計画を着実に実行に移すうえで、これらの組織の役割は極めて重い。県が本気になって取り組む姿を示すことで、民間に奮起を促し、官民一体の機運の盛り上げにつなげたい。
◎多い無保険失業者 「安全網」の整備をさらに
職を失いながら失業保険給付を受けられない「無保険失業者」の割合を国際労働機関(
ILO)が調査したところ、日本は77%と先進国で最悪の水準にあるという。非正規労働者らの雇用・生活環境の厳しさを示す数字である。失業給付の条件を緩和する改正雇用保険法が今国会で成立し、無保険失業者の割合は改善されることになるが、同法の改正に当たっては、適用条件の一層の緩和などを求める付帯決議がなされており、雇用の「安全網」の拡充をさらに考える必要がある。ILO調査は、新興市場国を含む主要八カ国を対象に行われた。無保険失業者の比率の 高い順で、日本はブラジルの93%、中国の84%に次いで三番目であり、57%の米国や10%台のドイツやフランスを大きく上回った。 今回の雇用保険法改正では、失業給付を受けるのに必要な保険加入期間を、現行の一年 から六カ月に短縮するなどの措置が取られている。雇用保険の加入要件の緩和で、非正規労働者約百五十万人の加入増が見込まれているが、雇用保険制度に関連して、もう一つ大きな問題がある。失業給付を受けられない非正規労働者の受け皿が生活保護制度に限られていることだ。失業者に対しては、行政が生活費などを低利融資する生活福祉資金制度などはあるものの、実際の利用は低調という。 このことは、生活保護制度に関する国と地方自治体の協議でも問題になり、先の会合で は、雇用と生活の両面で活用できる種々の資金を充実させるなど、生活保護だけに頼らない社会保障のあり方を検討することで一致した。 雇用保険法の改正を審議してきた与野党も、無保険失業者が職業訓練を受けた場合に生 活費を支給する制度の創設で合意している。雇用保険と生活保護の間の「第二のセーフティーネット」を設けようという考え方である。 現在の日本経済は雇用のミスマッチをなくし、成長分野や人手不足の業界に人材を移す ことが大きな課題になっている。労働力移動を円滑に進める上でも雇用の安全網の整備は重要である。
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