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長寿都市 第2部 【12】▶▷風呂
- 2009/03/15
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生きる意欲に不可欠
「気持ちよかった」。風呂から上がったばかりの80歳半ばの男性が、火照った顔をほころばせた。介護ヘルパーに服を着せてもらう男性からは、せっけんの香りがほのかに漂った。
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横浜・寿地区(中区)の寿町総合労働福祉会館内にある「翁湯(おきなゆ)」。この銭湯では2007年5月から、市の補助を受けて介護保険の要介護認定者を対象に、週1回の風呂開放を始めた。男性はヘルパーの介助を受け、3カ月ぶりに湯船につかった。現在、10人ほどが翁湯で入浴サービスを利用している。
「風呂がないんやなあ」。寿地区と同じ簡易宿泊所(簡宿)街の大阪市西成区あいりん地区の簡宿オーナーの西口宗宏さん(49)は、かつて寿地区を訪れて驚いた。あいりん地区では共用の風呂が備わっている簡宿は多いが、寿地区の簡宿で汗を流せるのはコインシャワーだけ。風呂のある築5年の簡宿1軒で一日20人弱の介護入浴が行われている程度だ。
寿地区のほとんどの簡宿は各居室に給排水設備がなく、移動入浴車で浴槽を室内に持ち込む訪問入浴サービスを受けられない。
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寿地区で、介護入浴の受け入れが最も多いのは、高齢者ふれあいホーム「木楽な家」。市の補助を受け、地元で支援する個人、団体が10年前にオープンさせた施設だが、1階の風呂は介護保険制度がスタートした2000年度以来、要介護者も原則として週1回利用している。
木楽な家での介護入浴の利用者数は01年度は延べ9百人強だったが、05年度には4千人近くまで急増。風呂場は狭く一度に2人しか入れず、フル稼働しても利用を制限せざるを得ない飽和状態が続いていた。
07年度は約3500人に減った。翁湯での受け入れや、新規の希望者に寿地区内外のデイサービス施設を利用してもらうなどして分散されたためだ。寿地区の訪問介護事業所が地区内に自前の風呂を整備する動きも出ているが、風呂不足を解消するまでには程遠い。
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木楽な家運営委員長の寺田秀雄さん(76)は「寿には風呂に入ることができない人がまだいる」と憂える。寿支援者交流会事務局長の高沢幸男さん(38)も「長く風呂に入っていない人は汚い、臭いと思われたくないから、孤立しがち」と心配する。
寺田さんも8年前に病気で手術をしてからは入浴に不安を覚え、床の滑り止めや手すりが付いた木楽な家の風呂を利用している。入浴は週に1回。「できれば週に3回入りたい。気持ちは和らぐし、人間にとって風呂は一番大事ですよ」
寿地区がさらなる長寿へと向かうためにも、ニーズに見合う風呂が必要だ。