「銃弾と爆弾だけでは勝てない」とオバマ米大統領は言いきった。アフガニスタン包括戦略を発表した際の声明である。アフガンの未来は隣国と不可分に結び付いているとしてパキスタンへの巨額支援も打ち出した。米国のアフガン政策の大きな転換点といえよう。
武断主義の色彩が強かったブッシュ政権には有名なエピソードがある。01年の9・11テロ直後、米高官がパキスタン当局に対し、米国に協力しないなら空爆を受けて石器時代に戻る覚悟をしろと圧力をかけたというのだ。パキスタンのムシャラフ前大統領が自ら暴露した話だ。
9・11直後の混乱期とはいえ、ごう慢と映る米国の態度はパキスタンやイスラム諸国の反発を買い、アフガン戦線にも悪影響を及ぼした。こうした関係を改め、アフガンやパキスタンとの連携を強めようというオバマ戦略は、同時にイスラム圏との融和という側面を持っている。
険悪なアフガン・パキスタン情勢を思えば、オバマ政権の包括戦略が実を結ぶよう期待せずにはいられない。01年からの米国のアフガン攻撃でイスラム原理主義のタリバンは政権の座から転落したが、その後じりじりと巻き返し、米軍などを苦しめている。
また、核兵器を持つパキスタンでもテロが相次ぎ、一部地域はアフガンで活動する国際テロ組織アルカイダやタリバンの隠れ家にもなっているのが実情だ。
オバマ政権が表明したパキスタンへの年15億ドルの援助(5年間)は、同盟国のイスラエルやエジプトを除けば異例の規模である。ただ、反米感情をやわらげる融和姿勢だけでは戦いに勝てないのも自明だ。オバマ政権は、アフガン政府とタリバン穏健派の対話による「国民和解」に前向きだが、米軍の苦戦が続くようなら、穏健派を武装闘争から対話路線へ転じさせることも難しくなる。
その意味では米軍増強の効果にも期待したい。オバマ政権は今回、アフガン軍訓練などのため4000人の増派を発表した。すでに公表された1万7000人増派とあわせて、アフガン駐留米軍は現在の約3万8000人から6万人規模に増えるという。
軍事・民生両面の戦略について、米国は今後「アフガン安定化国際会議」や、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議などを通じて各国の貢献を求める方針だ。日本への要望の詳細は不明だが、支援要請に対しては前向きに検討すべきだろう。
中国、ロシアを中心とする「上海協力機構」も、米代表を招いてアフガン問題を協議する特別会合を開いた。アフガンが第二の「ベトナム」になれば、米国だけでなく世界の利益が損なわれると考えているためだろう。「オバマの戦争」に、明るい「出口」が早く見えてくるよう期待したい。
毎日新聞 2009年3月29日 東京朝刊