東京の桜はゆったりと百花乱れる花の4月へ向かっている。農民は稲の種まきの時期を告げる桜の開花を田の神としてあがめた。それが花見の起源だという。「桜ほど酒喰(くら)ふ樹はなかりけり」(雪膓(せっちょう))と、花の盛りを愛(め)でるのもいい。
▼桜の品種は330種ほどあるが、約8割の木はソメイヨシノ。江戸末期に野生種のオオシマザクラとエドヒガンザクラを交配して生まれ、すべて一部を切った挿し木などで増えた。元の性質を引き継ぐ一種のクローンだ。命名は1900年。成長が速くみごとな花をつけるため、広く普及し桜の代名詞となった。
▼千年桜などという長命なものはエドヒガンやベニシダレである。ソメイヨシノは複製のため、同環境なら一斉に空を覆うほどの大ぶりの花をつける。身を振り絞るかのような渾身(こんしん)の頑張りで圧倒的な量感で迫る。それゆえ消耗が激しい。開花期も短く寿命が短い原因の一つといわれる。せいぜい5、60年だろう。
▼日本最古のソメイヨシノは弘前公園にある。1882年に植えた生き残りだ。「桜切るばか、梅切らぬばか」といわれたが、公園の担当者は「それは過去の話。桜も枝を切って手入れすれば延命できる」という。見上げれば満開の花ではなく、ミサイルが降ってくるような“狼藉(ろうぜき)”は、春の日に御免蒙(ごめんこうむ)りたいが……。