自殺を考え、悩む人たちに文通を通じて寄り添う僧侶がいる。さいたま市北区の浄土宗真福寺の副住職、加藤健一さん(31)。首都圏の宗派を超えた僧侶でつくる「自殺対策に取り組む僧侶の会」(藤沢克己代表、22人)の県内唯一のメンバーだ。僧侶になって3年。「苦しむ人の役に立てる僧侶になりたい」との思いがある。【山崎征克】
加藤さんは大学で仏教を学び、会社員を経て05年に実家の真福寺に戻り、父の忠雄住職(63)を手伝い始めた。
数カ月後、葬儀会社の男性から「悲しみとどう向き合ったらよいかと、遺族から相談される」と聞かされ、がく然となった。自分は檀家からですら、悩みを打ち明けられたことがない。未熟さを痛感し、「僧侶と一般の人との間に垣根がある」とも考えた。
相談を受けられるだけの心の度量と技術を身につけるため、06年春、寺院向けの冊子で見つけた宗派のカウンセリング講座に通い始めた。複数の講座を修了した今も月に1回程度、講座に通う。講座で知り合った僧侶の紹介で、07年の僧侶の会の発足に加わった。
会は、年末に自殺者の追悼法要をしたり、講演などで自殺問題の啓発に努めている。昨年から、自殺しようかと思い詰めている人や遺族からの手紙相談を受け始め、これまでに全国から約700通の手紙が寄せられた。
加藤さんは昨年10月から手紙の返信を担当している。手紙の多くに「家族や友人に迷惑をかけたくない」という心情がつづられ、相談者は弱いのではなく、人一倍責任感が強いのだと感じている。「本当は生きたい」との思いも伝わってくる。
返信は1週間かけて書く。「親しい人にも言えない苦しみを手紙でお聞きしている。自殺を踏みとどまってくれる方が一人でも増えれば、僧侶としてうれしい」。若い自分に相手の苦悩を受け止められるのか。悩むこともあるが、昨年末、年長の相談者から「頂いた手紙を大切にします」と返事をもらい、「役に立てた」とほっとした気持ちになれたという。
手紙のあて先は〒108-0073東京都港区三田4の8の20「往復書簡事務局」。
毎日新聞 2009年3月25日 地方版