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チベット動乱:鎮圧50年 中国と亡命政府、歴史認識で応酬

 ◇農奴解放か、生き地獄の始まりか

 中国政府はチベット動乱(1959年)の鎮圧から50年となる28日に合わせ、「農奴解放と民主改革」のPRに躍起になっている。今年1月にチベット自治区が3月28日を「農奴解放記念日」と定めたことを含め、亡命チベット人社会は強く反発している。チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は「中国統治下の50年こそ生き地獄」と批判しており、双方の対立は激しさを増す一方だ。【北京・浦松丈二】

 「幼かった私には領主の前でひざまずく理由が分からなかった。食べ物をもらおうとして何度も打たれた母は『農奴の命には草一本の値打ちもないのよ』と言っていた」。チベット・ロカ地区の農奴だった白珍さんが涙ながらに語った。

 中国国営新華社通信は24日、ラサでのチベット族女性による「農奴解放記念日」座談会の模様をこう伝えた。中国各地では28日を前に同様の座談会が開かれている。農奴の悲惨な暮らしぶりを宣伝し、半世紀に及ぶ中国政府の統治の正しさを訴えるためだ。

 また、全国人民代表大会のチベット族代表(国会議員)5人が今月中旬、米国やカナダを訪れ、政府や議会にチベットの発展ぶりなどを説明した。帰国後の27日に記者会見した団長の活仏(生き仏)、シンツア・テンジンチョドラク代表は「誤った情報がまかり通っていた」と、外国訪問を続ける姿勢を示した。

 中国政府が今月発表した白書「チベット民主改革50年」は、動乱鎮圧前のチベットについて「中世ヨーロッパよりもさらに暗黒で立ち遅れた政教一致の封建農奴社会だった」と位置づけたうえで、ダライ・ラマを「権力を一手に握り、封建農奴主階級の総代表だった」と批判した。

 白書はまた「チベット総人口の5%足らずの農奴主たちが財産を独占し、95%以上の農奴には人間としての権利など全くなかった」と指摘。20世紀初めにチベットを訪れたイギリスの従軍記者や米国研究者らの著作などを引用し、農奴たちに科せられた残酷な刑罰などを描き出した。

 一方、ダライ・ラマは動乱発生50年の今月10日に声明を発表し、「中国共産党の『民主改革』をはじめ階級闘争、集団主義化、文化大革命、戒厳令の施行、最近の愛国教育の強化など、チベット人は生き地獄を経験した」と中国統治を批判した。

 また、チベット亡命政府も「社会階層は固定したものではなく、宗教を背景とした独特の流動性があった。ダライ・ラマ14世も農家の出身だ。実際、活仏は社会各層から出ている」などとして、中国政府の歴史認識に偏りがあると反論している。

 昨年3月のラサ暴動以降、中国政府と亡命政府はそれぞれの正当性を国際社会に訴えてきた。ただ、中国当局は今月に入ってから暴動の再発を抑え込むためにチベット族居住区で厳戒態勢を敷いており、熱心な宣伝活動とは対照的に海外メディアの現地取材を厳しく制限している。

毎日新聞 2009年3月28日 東京朝刊

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