イチローは、日本代表の強みが的確な対応と結束力の2点であることを、早い段階から見抜いていた。相手をよく研究し、周到に準備することで、集団の力は飛躍的に高まる。それぞれの選手が日本野球で培った基礎、プレーへの深い理解がその土台だと考えていた。
10回日本2死二、三塁、イチローが中前に勝ち越しの2点打を放つ。投手林昌勇=ドジャースタジアム(共同)
「アメリカや中南米の選手の、個々のパフォーマンスは確かに高い。でも、例えば何カ月も前から気持ちの準備をして大会に臨んでいる選手が何人いるかというと、ゼロに近いんじゃないか。その点で大きく違うアジアの野球は、アドバンテージをとることができる。チームとして、いい流れを生み出す可能性がある」
自らは強力な触媒として機能した。前回大会の活躍から、誰よりも大きな注目を浴びることは分かっていた。ひとり突出して目立つのが避けられない状況で、よりどころとしたのは、一貫した言動だった。
2月22日に代表メンバーが決まるまで、押しも押されもしないジャパンの中心選手が「日の丸のユニホームが目標」と言い続けた。誰よりも大きな実績の持ち主が、誰よりも早い仕上がりで宮崎の代表合宿に乗り込み、そのせりふを繰り返した。リーダーの言動一致が、結果的に個性あふれる職人集団を束ね、同じ方向へと導いた。
集団がまとまることで勝算が生まれたとはいえ、実力伯仲のチームが競うWBCでの連続優勝はかなりの難行だった。その精神的支柱として、イチローが受けた重圧の大きさは想像を絶する。個人成績は確かにもの足りないが、彼の存在なくして日本代表の優勝は語れない。
闘志を前面に押し出して周囲を驚かせた3年前と形こそ違っていたが、今大会でもイチローがWBCの中心にいたことは間違いない。(共同)
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