テレ屋だが、食への思いは誰よりも強い鹿本農業高校・農業クラブの部員たち。前列中央のふたりが持つ研究レポートは400ページを超えるボリューム!まさに努力の結晶だ。
うだるような酷暑とゲリラ豪雨が続いた2008年の夏。鹿本農業高校・農業クラブの生徒たちは、地元デパートで催される熊本特産品展への出店と農業クラブの成果を競う九州大会への参加を控え、準備に忙しかった。
農業クラブが米粉パンの開発を始めたのは5年前。茶葉を練りこんだ「あんてぃーくパン」、地元野菜を具にした「ひごまる米粉ピザ」などバラエティ豊かなパンを次々と考案し、昨秋はコンビニエンスストアチェーンのエブリワンとの商品開発も経験した。そして今年、熊本産米粉と鹿本名産のメロンを組み合わせ、その名もずばり、「高校生のコメロンパン」を生み出した。
部長の松本智美さんによると、始まりは「メロンパンには、なぜメロンが入ってないの」という素朴な疑問だったという。かくして「メロンを使った本物のメロンパン」というテーマはすんなり決まったが、実現にはいくつもの困難があった。天然のメロン果汁を生地に練りこんだが、それだけではいわゆる「メロン色」にならない。しかし着色料は使いたくない。当初から全国の人に喜ばれるパンをめざしていた生徒たちは、夢の実現に向けて、新たなセールスポイントを探し始めた。
メロンジャムをメインにするアイデアは、ウリ科のメロンを加熱すると黒くなり、見た目がよくないことから早々と消えた。熊本銘菓の朝鮮飴をメロン風味にして加えてみたが、パンに入れると味も食感もぱっとせず、あえなく却下。試行錯誤の末、メロン果汁入りの白玉だんごにたどり着いた。「お母さんに試食してもらったら、最初は『なんね、これ』ってびっくりして、『でも、おいしい』と言ってくれた」と望月裕子さんは振り返る。メロンパンの皮は小麦粉のクッキー生地でサクサクと仕上げ、米粉パンならではのしっとりとした中身と好対照を醸す。メロンの味と香りを白玉だんごで主張し、アクセントにする。近隣の道の駅・メロンドームでの試食会も好評で、ゴールデンウィーク前には先生たちも納得する仕上がりとなった。
よし、次は商品化だ。企業へ企画提案するのも、むろん生徒の仕事である。「テレビでも人気のパンくんとタイアップできたら、全国展開の足がかりになる」。さっそく阿蘇カドリー・ドミニオンの商品を販売する阿蘇デリシャスにアプローチしたところ、返事は「快諾」。 同社常務の野田謙二さんが、「小麦粉と米粉の生地、そしてだんごという加熱温度の異なる素材の組み合わせは、パンのプロにはない斬新な発想。食味もよい!」と感嘆したほどの出来ばえだった。しかしそれは同時に、量産化には高い技術が必要なことを意味する。長く愛される商品に育てるには、パッケージデザインをはじめ、さらに付加価値が欲しいところだ。検討を重ねるうちに、生徒たちはよい商品をつくりさえすれば売れるわけではないこと、商品がお客様のもとに届くまでに多くの人や企業が関わること、さらに事業の収益性についても学んでいった。念願だった東京での販売も決まり、東急百貨店のバイヤーと打ち合わせをするため、栗原弘くんは東京に出向いた。「むちゃくちゃ緊張した」というけれど、何にも換えがたい経験だったことは間違いない。「生徒たちは、ひとつずつ課題を乗り越えながら成長しています。この経験は将来社会に出たとき何倍にもなって活きるでしょう」。顧問を務める大倉龍喜先生の言葉である。
夢を描く。プランを立てる。実行する。結果を検証する。再びチャレンジして課題をクリアする。鹿本農高農業クラブのメンバーにとって、コメロンパンの商品化に挑んだ2008年の夏は、冒険の連続だった。全国デビューという成功の背景には、熱意ある企業人や地域の人たち、そして農と食を愛する先生方の支えがあった。米粉人気も追い風になった。しかし生徒たちが「細かくて投げ出したくなる」データ整理をこなし、午前7時に登校してプレゼンテーション用の資料をつくり、「すごく苦手」な発表にチャレンジしなければ、「日本中の人に熊本の米粉パンを食べてもらう」という夢はかなわなかった。
彼らの次の目標は、コメロンパンを熊本土産の定番にすること。卒業後は、栄養士や調理師として、または食品メーカーへの勤務など、全員が「食」に関わる仕事をめざしているという。農高生の冒険は、まだまだ続く。
【お問い合わせ】 | 「高校生のコメロンパン」発売元 株式会社阿蘇デリシャス |
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[ 住 所 ] | 熊本県阿蘇市黒川2163 |
[ 電 話 ] | 0967-34-0447 |
[ URL ] | http://www.cuddly.co.jp/asodelicious/ |
[注目情報] | コメロンパン 日本一に!
2008年10月21日から23日にかけて佐賀市で行われた日本学校農
業クラブ全国大会で、「コメロンパン」開発プロジェクトが、
食料区分 最優秀賞(農林水産大臣賞)に輝きました
熊本県立鹿本農業高校
http://www.higo.ed.jp/sh/kamotono/鹿本農高・農業クラブのこれまでの取り組みは、「農林水産省」のWEBにも掲載されています www.maff.go.jp/j/soushoku/keikaku/komeko/ suishinkaigi/pdf/6kai/kyusyu2.pdf 鶴屋百貨店 http://www.tsuruya-dept.co.jp/ |
阿蘇のパン屋・古木家の監修を受け、レシピの仕上げに取り組む部員たち。生地をこねる手つきをまねている西口翔也くんは卒業後、地元のパンメーカーに就職する予定。「もっともっと、おいしいパンをつくりたい」
8月に鶴屋百貨店で開催された熊本特産品展に出品、7日間で8500個が売れた。同店バイヤーの高野健さんは「すばらしい快挙!今後、鹿本に続く高校が出てくると思う」と農高生への期待を語った。
農業を学ぶ高校生が研究成果を披露する九州学校農業クラブ連盟九州大会・食料部門で最優秀賞を受賞。次は、全国大会に挑む。発表を行った坂梨文香さんは、「話すのは苦手だけど、がんばってよかった」
「高校生のコメロンパン」(180円)。阿蘇カドリー・ドミニオンや熊本の鶴屋百貨店、他で販売中。
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