中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 速報ニュース一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

女児死亡事故判決 改ざん足かせ 苦渋8年

2009年3月28日 07時08分

写真

 「医療事故を刑事裁判で問う難しさを痛感した」。東京女子医大病院で、心臓手術を受けた小学六年平柳明香さん=当時(12)=が死亡した事故で、佐藤一樹医師(45)を再び無罪とした控訴審判決。困難な事実認定。遺族は落胆の表情を示した。 (<1>面参照)

 東京高裁の中山隆夫裁判長は「大学から遺族に情報が正確に伝えられず、司法解剖もされなかった。死因をはじめ事実認定に困難が生じ、医療事故の教訓を残した」と異例の説諭をした。

 明香さんの父利明さん(58)は、判決後の記者会見で「(説諭は)裁判長が一番言いたかったことだと思って聞いていた。しっかり受け止めたいと思った」と語った。

 事故から八年。判決は「人工心肺装置のトラブルが原因」とした東京地裁判決を否定し、チームを組んでいた執刀医のミスが事故につながった可能性に言及した。真相を知りたいと願う遺族は一、二審で異なる事実を示された形になった。

 自身も医療界に身を置く歯科医師の利明さんは「医療過誤を刑事事件として立証することは、非常に難しいことだと判決を聞きあらためて思いました」と静かな口調で語った。

 執刀医が記録を改ざんしたことが裁判長期化の背景にあった。「お互い推論をぶつけあうだけになり真相究明を遠くする。空疎な裁判になった」と大学側を批判。専門家で構成する第三者機関による調査の必要性を訴えた。

 一方、無罪判決を受けた佐藤医師は「主張してきたことがほぼ百パーセント認められた。遺族は、なぜ女児が亡くなったのかを知りたい。それを高裁が示してくれた」。

 「遺族に情報を伝えるために、死亡原因は何かを明確に判断しないといけないのに、医大は心臓外科医を外して、原因を求めようとした」と大学の姿勢を批判。「脳波の検査を執刀医に求めたが、許されなかった。医局の上下関係でできなかった」と振り返った。

■初期対応捜査側にも不手際

<解説>

 東京女子医大の医療ミス事件で、弁護側の主張を全面的に認めた二十七日の東京高裁判決は、死亡の原因が執刀医側にあったことを示唆し、同大側の初期対応の問題点や捜査の不手際を事実上批判した。

 医療事故が起きた直後、女児の脳波を調べず、医療過誤を想定した司法解剖の依頼もしなかった。執刀医は看護師らに証拠隠滅も指示し、死亡原因の特定を妨げた。

 大学は事故の後、装置の操作に原因があったなどとする報告書をまとめた。警視庁や東京地検はその構図に沿って立件に踏み切り、人工心肺装置を担当していた被告が逮捕、起訴された。弁護人は「報告書に依拠しすぎた。時間があったのに、きちんと調べなかった。検察の読み違いによって真相が明らかにならなかった」と批判する。

 割りばしがのどに刺さって死亡した男児の事件や、出産後に母親が死亡した福島県の「大野病院事件」など、医療事故で無罪判決が続いている。

 医療過誤事件は、高度な専門性が必要とされるなど、医師個人の責任を追及する刑事事件として立件するのにそぐわないという声は、医療界だけでなく検察など捜査機関にもある。

 国は医療版の事故調査委員会の設立に向け動いているが、東京女子医大のように医療機関が証拠隠滅を図れば設立されたとしても「絵に描いたもち」になるだろう。「医療事故の教訓を残した」とした裁判長の異例の説諭は、医療機関側に猛省を促している。 (荒井六貴)

(東京新聞)

 

この記事を印刷する

広告
中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ