01年に東京女子医大病院(東京都新宿区)で心臓手術を受けた平柳明香(あきか)さん(当時12歳)が死亡した事故を巡り、業務上過失致死罪に問われた医師、佐藤一樹被告(45)の控訴審判決で、東京高裁(中山隆夫裁判長)は27日、1審の無罪判決を支持し、検察側の控訴を棄却した。【伊藤一郎】
佐藤医師は、助手として立ち会った平柳さんの手術で人工心肺装置の操作を誤って重度の脳障害を生じさせ、死亡させたとして起訴された。1審・東京地裁は「被告が装置の危険な構造に気付かなかったことを責めるのは酷」と予見可能性を否定し、無罪を言い渡した。
控訴審判決は「執刀医が装置の管を挿入した位置が悪かったことが原因で脳障害が生じた可能性が高く、被告の装置操作と死亡との因果関係はない」と判断、別の医師のミスが死亡につながったとの見方を示した。
判決言い渡し後、中山裁判長は佐藤医師に対し「明香さんの死を正面から受け止め、冥福を祈ってほしい。このような悲劇が二度と起こらないよう努めてください」と諭した。事故を巡っては、手術チームリーダー(53)が隠ぺい目的で診療記録を改ざんしたとして証拠隠滅罪に問われ、執行猶予付き有罪判決が確定している。
佐藤医師は判決後に会見し「主張してきたことが100%認められた」と語り、喜田村洋一弁護士は「検察は原因究明をきちんとしないまま誤った起訴をした」と批判した。一方、平柳さんの父、利明さん(58)は「カルテの改ざんなどで、客観的事実が分からないまま出された判決。聞いていてもむなしかった」と落胆した。
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■解説
1審に続き佐藤医師に無罪を言い渡した27日の東京高裁判決は、検察側の主張を信じて真相解明を求めてきた遺族にとっては酷な結果となった。
検察側は病院の内部調査委員会の報告に基づき、佐藤医師を起訴したが、弁護側はこの報告を否定する日本胸部外科学会などの検証結果を証拠提出した。法廷で証言した医師らの意見も分かれ、判決は「医師の間でも見解の相違があり、死因についてもさまざまな見方がある」と指摘。医療事故を刑事事件として扱う難しさを改めて示した。
一方で、診療記録を改ざんした別の医師の有罪は確定しており、今回の無罪判決が病院側の不誠実な対応を帳消しにするわけではない。「一般に難易度が低い」(1審判決)手術で尊い命が奪われ、遺族がいまだに納得できないのも当然だ。医療界は改めて襟を正し、患者本位の医療に尽くさなければならない。【伊藤一郎】
毎日新聞 2009年3月28日 東京朝刊