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須賀川一中柔道訴訟:学校側に責任 両親苦しさ吐露「隠した真実暴かれた」 /福島

 ◇事故から5年5カ月

 須賀川市立第一中で03年に起きた柔道部での事故を巡る損害賠償請求訴訟で27日、福島地裁郡山支部(見米正裁判長)は学校側の責任を認め、市や県などに約1億5600万円の支払いを命じた。意識が戻らないままの元女子生徒(18)の両親は「事故直後は一日一日が生きていくのがやっとだった。市教委や学校側が隠し通した真実が裁判で暴かれた」と、事故から5年5カ月の苦しかった思いを語った。【神保圭作、坂本智尚】

 この日の法廷では判決の主文が読み上げられ、両親はじっと聴き入っていた。

 郡山市内で会見した父親(53)は「本当に長かった。ここまでしなければ事故の責任と真相を解明できなかったのは異常と感じている」と市教委と学校側の対応を改めて批判。「事故後、二度にわたり謝罪を要求したが断られた。今さら謝罪を受け付けるつもりはない」と話した。母親(45)は「納得のいく判決が出たと思う」と話し、終始うつむきがちだった。

 事故を巡っては、当時の顧問と副顧問が業務上過失傷害容疑で送検されたが、「嫌疑不十分」として不起訴処分になった。今回の判決は2人について「日ごろから部員の個々の技量に応じた安全対策を講じていなかった」とし、特に顧問は1カ月前の傷害を認識しながら「具体的な対策をほとんど取らなかった」と判断した。

 原告代理人の弁護士は「市教委は判決を厳粛に受け止めるべきだ。部活での事故は全国的に起きており、今回の判決は、生徒の安全・安心を求める教育現場へと変えていく大きな力になる」と意義を強調した。

 県教委の野地陽一教育長は「原告の方のご回復をお祈りしている。判決の内容を吟味して、適切に対応していきたい」と談話を発表。橋本克也・須賀川市長は「今後、判決内容を精査するとともに、問題の一日も早い解決を目指し、誠意をもって対応していく。元女子生徒の一日も早い回復を願っている」とコメントした。

 ◇「人間らしい扱いを」

 「人間らしい扱いをしてもらいたいかった。学校の対応で胸にぽっかり穴があき、一生ふさがらない」。母親(45)は長女の元生徒の事故後、中学校の対応にずっと不信感を抱いていた。

 学校が作成した事故報告書には、「柔道部や学校には一切責任はありません」と母親が話したことになっていた。「娘の回復より保身に動いていたのではないか。責任の所在をはっきりさせたい」と事故から約3年後、提訴に踏み切った。

 母親はパートを辞め、通信教育で「介護ヘルパー2級」の資格を取得。1日6回の流動食と水分補給など、ヘルパーの助けも得て長女の介護に専念してきた。部屋を増築し、壁には全国から激励で届いた千羽鶴をつるした。

 長女は県立郡山養護学校に進み、07年秋には大阪への2泊3日の修学旅行に参加した。「外出は命がけだった」が、ヘルパーらと飛行機に乗るシミュレーションを重ね、通天閣やUSJを同級生たちと回った。

 今月18日の卒業式では、式の後に在校生らが長女のために「BELIEVE」を声を合わせ歌ってくれた。「たとえば君が/傷ついて/くじけそうに/なった時は/かならずぼくが/そばにいて/ささえてあげるよ/その肩を」。長女が元気だったころ、好きだった曲。涙があふれた。

 母親は判決前、「事故を隠そうとする学校の体質が壊れるきっかけになれば」と語っていた。この日、学校側を厳しく批判した判決に、「まず娘に報告したい」と語った。【神保圭作】

 ◇部活動、教師に過重労働--抜本的改革必要

 中学校の柔道部での事故を巡る訴訟は過去にもあり、学校側の責任を認めるケースが多くなっている。

 静岡地裁では94年、静岡県焼津市の中学で柔道経験者の生徒が初心者の生徒に「乱取り」練習をさせて死亡させたとして、市と加害者の両親に約5000万円の支払いを命じた。生徒が自主練習をすることは予見できたとして、練習に立ち会っていなかった顧問の過失も認めた。

 97年には新潟地裁高田支部で、新潟県妙高高原町(当時)の中学で初心者の生徒が技を掛けられ死亡したとして、町に約3400万円の支払いを命じた。顧問らが十分な安全対策を講じなかったことが過失と認定された。

 県教委は部活動に顧問が立ち会うように呼びかけているが、現場では業務が多忙で立ち会えない現状もあるとみられる。法政大の尾木直樹教授(臨床教育学)は「部活動はほぼボランティアで、教師に過重労働を強いることになっている。国は部活動の顧問を外部から招くなど、抜本的な改革をする必要がある」と指摘している。【松本惇】

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 ◆須賀川一中・柔道事故を巡る動き◆

03年10月 女子生徒が柔道部の練習中に意識不明になる

       学校が事故報告書を提出

04年 3月 学校が事故報告書を訂正、再提出

    7月 両親が当時の顧問と副顧問を刑事告訴

05年 9月 須賀川署が元顧問らを業務上過失傷害容疑で書類送検

06年 3月 市教育長が須賀川市議会で初期対応の非を認める

       女子生徒が中学校を卒業

    4月 元女子生徒が県郡山養護学校に入学

    8月 元女子生徒と両親が市や県、男子生徒らを提訴

07年 3月 市教委が事故の再検証報告書を提出

08年 8月 福島地検が当時の顧問と副顧問を不起訴

       両親が福島検察審査会に不服申し立て

   10月 福島検察審査会が「不起訴相当」と判断

09年 1月 民事訴訟が第11回口頭弁論で結審

    3月 女子生徒が県郡山養護学校を卒業

毎日新聞 2009年3月28日 地方版

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