HOME> 千野圭一の辛口コラム
- 第426回
- UPDATE 08/10/10
力まない浦和の方が勝てるのに
代表は相変わらずの岡田采配で不満のドロー
Jリーグも終盤を迎え、相変わらず優勝候補の一角にある浦和レッズが、ばたばたとした戦いを続け、勝ち点を伸ばせずに苦悩している。
浦和の戦いぶりを見て、率直に思うのは、試合を90分で捕らえていないように感じることだ。リードしていようとされていようと、タイスコアであろうと、90分が短くなることはない。実力があり、誰もが破り難い難敵と恐れているのに、浦和自身が付け入る隙を与えるかのようなどたばた振りを最初から見せている。
私にとっての苦言の標的にもなっている闘莉王には大問題がある。確かに彼の得点力は大いに発揮されているし、最後の最後にはパワープレーで生かされることが多いが、基本的には彼はディフェンダーだ。俊敏さには“?”マークも付くし、守備能力が素晴らしく高いとは言いがたいが、彼が中央でどっしりと構えていれば、守りのバランスが大きく崩れることもないのに、このミスター・エゴイスト氏(ドイツのマスコミから、こう批評されたという)は、ひょこひょこと前に行きたがる。
私が90分と言ったのはこの点だ。焦ることはないのだ。前半早々に1点を取って1-0で勝っても、後半のアディショナルタイムに1点を取っても相手に得点を与えていなければ、1-0の勝ちで同じことだ。大量の得失点差が必要というわけではなく、とりあえずは、勝ち点3を積み上げていかなければならない現状にあって、浦和の戦いはなぜか焦りまくっているように映ってならない。
引き分けた京都サンガ戦も敗れたジェフ千葉戦も、まずはじっくりと守備ラインを構築して単純に攻守の役割分担に沿って試合を進め、自分たちのリズムを作ってから多彩な攻撃を仕掛ければ良いのに、前半で勝負を決めてしまおうとしているような焦った攻めを見せるからバランスを悪くし、虻蜂取らずになる。
その点では、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝第1戦のガンバ大阪とのアウェー戦は、アウェーでの戦いという要素もあっただろうが、じっくりと構えて試合を進め、細貝の効果的な先制ゴールもあって、どっしりとした王者らしい戦いを久しぶりに見た。
ケガの影響で闘莉王が欠場し、坪井、阿部、堀之内で組んだ3バックは最後まで守りの組織を崩すことなく戦えたのが功を奏した。両足が痛いとかで休みたいと訴えていたというエゴ君は、その本領を発揮するように試合終了間際、坪井が負傷すると、本当に足が痛かったの? と疑われるように、はつらつとした表情で、嫌がる様子もなくピッチに歩を進めるのだから面白い。
浦和はPKを名人・遠藤に決められて1-1と引き分けたが、大きなアドバンテージを得たことに変わりなく。残り90分の戦いを焦ることなく乗り切れば連覇に向けて決勝に駒を進める可能性が高くなったと状況的には判断できるが、エンゲルス監督はホームでの第2戦は、勝って決勝へと力強く豊富を語っていた。
あれだけ熱心で情熱的で激しい応援をするサポーターたちに向け、控えめな発言などできないのかもしれないが浦和の力を持ってすれば、勝つぞ、勝つぞと肩に力を入れて戦うより、バランスを保って普通に戦った方が、勝つ確率は高くなると思うのだがどうだろうか。
逆に下手に焦るとリーグ戦の二の舞を踏み、ガンバに付け入る隙を与えるような逆効果になってしまうのではないかと危惧している。
私はレッズのサポーターではないので危惧する必要がないので、第1戦同様の良いゲームを期待したい。
Jリーグ、ACLも終盤で息もつかせぬ観戦模様だが、もっと気になるのが代表の動向だ。10月15日に控えたウズベキスタンとのホームゲームを前にアラブ首長国連邦(UAE)との親善試合に臨んだ。UAE、ウズベキ戦に向けて、我らが岡ちゃん、岡田監督はまたまた奇をてらうメンバー選考をやってくれました。呆れて物が言えないので言わないが、さて、前哨戦のUAE戦はどうだったのか。まあ、勝ったからどう、負けたからどうということはないが、負けるよりは勝った方が良い。この手の試合はわずかな収穫と、わずかな課題を残して引き分けくらいがちょうど良いのかもしれないが、ホームでの試合だから・・・。
さて、結果はというと、課題がたくさん見つかった引き分け。結果的に引き分けたが、その経過が良くなかったし、改めて岡田監督の指導者としての資質を疑うようなことがたくさん見て取れた。
UAEを率いていたバテネイ監督は、懐かしい顔。フランスがプラティニを軸に登場した1978年アルゼンチン・ワールドカップのフランス代表ミッドフィルダーで、日本人には名前から来る駄洒落のように聞こえるが、ピッチ全体を疲れることなく走り回るダイナモで、プラティ二の能力をさらに引き出すことに尽力した、まさにバテない選手。
日本対UAEの強化試合は、日本がウズベキスタンと対戦する10月15日にアウェーで韓国と対戦するUAEには良い準備試合になったのではなかろうか。最終予選ですでに2連敗のUAEはアウェーゲームとはいえもう負けられない。守備的に戦いカウンターで1点を取る、彼らが得意とするやり方は、仮想韓国の日本に対してある程度は合格点のできだったと言えよう。
後半、日本にチャンスを作られすぎ、日本のシュートミスに救われた面はあったが、韓国はある面、日本以上にシュートが下手なところがあるから、案外、やれるかもしれない。
今は他国の心配はいい。日本のことだが、良く分かった点を一つ。最近の代表は誰でも入れるあまり有難みのない存在になってしまったが、選手の質はよく見なければ。結果としてJリーグではそこそこできても、代表は国際試合を戦うのだから、選手の質はドメスチック・レベルではなく国際基準に照らし合わせなければならない。
飛び抜けたスーパー・テクニックを求めるのは酷だが、トップスピードで走り、パスを受け、しっかりとしたボールコントロールができないような選手に、頑張っただけで褒め言葉の羅列はできないだろう。
DFラインの裏へ飛び出す積極性、勇気とか、泥臭さなどといって異次元の評価を与えて、ろくにボールも扱えないようでは話にならない。基本的にしっかりボールを扱えない選手にはそのほかのことをする余裕もないから、自ずと様々な判断が遅れたりパスの精度、選択のミスなどが付きまとう。私はシュートミスを厳しく糾弾するつもりなどない。キックのミス、ヘッドのミスはボールを多く蹴ったり、ヘディングの練習を繰り返せば克服できるものだが、ボールを扱う上手い下手も練習が肝要だが、先天的なセンスが顔を出す面がある。
前半、先発で出たFWの玉田は、ほとんど左足一本でボールを扱い、厳しく体をぶつけられながらもボールを失わず、決定的なチャンスを作り出す能力に長けている。後半、大久保が決定機を逃したときも、右サイドからチャンスを作ったのは玉田だった。
今回の選考で騒がれたオリンピック世代では興梠が良かった。前線に飛び出すタイミング、コースにはセンスが感じられ、苦しい体勢でパスを受け、激しくチャージされてもバランスを崩さない。惜しくもポストを直撃したが、彼が放ったヘディング・シュートに至る飛び出しの妙。その後も右サイドを崩して作り出したチャンスなど、可能性を感じさせるものだった。
しかしそれでも本番の予選になるとどうなのか、心もとないというか、まだ不安がすべて払拭できたわけではない。
さらに付け加えるとすれば香川の才能、センスの良さだろうが、それ以外に目新しいものは皆無で、逆にこれで分かっただろうと思われる選手のテストが目に付いた。
それでも頓珍漢な選手選考と選手起用をする岡田監督には分からないかもしれない。今回はこれでも十分に配慮してダメな選手の名前を書かないように努力したつもりなのだが、岡田さん、分からないなら何度でも書きますよ。
代表監督には選手の選考や起用に関しては権利が与えられているから、岡田さんの場合には始末が悪い。まあ好きなようにやってくださいよと、表向き言ってみても、この方の場合、本当にいらだつことが多い。
今回は日程の都合もあり、浦和レッズ、ガンバ大阪の選手が起用できなかった。良い言い訳があったから、この辺で。でもなぜ、森嶋と森重は使われなかったのか。同じ五輪世代でも○○よりは・・・(おっと危ない)、ずっと良いのに。
千野圭一(ちの・けいいち)
1954年生まれ。東京都出身。
1977年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。サッカーマガジン編集部へ配属され、1982年には編集長に就任(〜1998年)。
1993年にはJリーグ開幕にともなってサッカーマガジンの週刊化を実現。その後も、1996年のアトランタ五輪でのブラジル戦勝利、1998年のワールドカップフランス大会への日本の初出場など、日本サッカー史の節目を見守ってきた。
辛口のサッカー批評で知られている。