日本で職を失いながら失業保険の給付を受けられない人の割合は77%に上り、先進国の中で最悪の水準にあることが、国際労働機関(ILO)が発表した報告書で明らかとなった。
新興国を含む主要八カ国を取り上げた報告書によると、最も無保険失業者の比率が高いのはブラジルの93%で、次いで中国の84%、日本は両国に続く高さだった。四位の米国は57%、英国40%、フランス18%、ドイツ13%と続く。
先進国の中では日本の突出ぶりが目立つ。欧州型の高福祉国家と異なり、「市場原理」が福祉にも浸透しているはずの米国をも上回り、日本の労働者が国際的にも極めて厳しい状況に置かれていることを裏付けた。国際機関からセーフティーネット(安全網)の早急な充実を促された格好である。
構造改革の「掛け声」の下で労働市場の流動化をはじめとする規制緩和が次々と実施された結果、国内の非正規労働者は急増し、今や千七百万人を超えて、全雇用者の三分の一を占めるまでになった。
しかし、派遣労働者などへの安全網整備は遅れたままだ。雇用保険に未加入の非正規労働者は一千万人に上るとみられ、失業給付が受けられない困窮した非正規労働者は「最後の安全網」である生活保護に頼るしかなく、全国的に受給者が急増している。
このため政府、与党は雇用保険法改正に取り組み、改正案は衆院を通過し参院に送付され、きょうにも成立の見通しとなった。改正案に盛り込まれた主な支援措置は、これまで一年以上の雇用見込みがある人しか入れなかった加入要件を「半年以上」に緩和するほか、解雇や雇い止めにあった非正規労働者への失業給付を最大六十日間延長するなどである。
ところが、この改正でも適用となるのは雇用保険未加入者のごく一部でしかない。今後は野党が修正を求めていた加入条件の一層の緩和なども検討すべきだろう。
失業した非正規労働者への対策として職業訓練の必要性も指摘されている。失業者が職業訓練を受ける場合に生活費も合わせて支給されれば、次の就職への意欲も高まる。早期の基金創設を望みたい。
世界的な金融・経済危機で、今後も雇用が悪化するのは避けられない。正社員中心となっている雇用の安全網を、非正規労働者にも対応できるよう改めることが急務である。
被爆者の救護活動などにかかわって放射能を浴びた「三号被爆者」の認定をめぐる訴訟の判決で、広島地裁は原告全員を三号被爆者と認め、広島市が被爆者健康手帳の交付申請を却下した処分は違法として取り消した。三号被爆者の手帳交付をめぐる初の司法判断である。
今月、同地裁が集団訴訟では初めて国家賠償を認めた原爆症認定訴訟と同様、より広い救済を求めたものだ。他の自治体の審査基準や認定作業にも影響を与えよう。
原告は、広島市郊外で被爆者を救援した母親と一緒にいたりした男女七人。「一日に十人以上の救護」を認定要件として交付の可否を決める広島市の基準は不当などとして二〇〇五年に提訴していた。
判決は、負傷した被爆者が集まった環境に相応の時間とどまった者は、救護をしたかや、救護した者に背負われたりしたかにかかわりなく「身体に放射能の影響を受けたことを否定できない」と判断。賠償請求は退けたものの、「市長は合理的根拠を十分精査せずに基準要件を導入し、被爆者援護法制定後も漫然と採用し続けた」と市の姿勢を批判した。
広島市と同様の厳格な認定要件は岡山、大阪、広島の三府県のみで、大半の都道府県は基準を持たず、中には「二週間で十人以上」の緩やかな例もあるという。広島市では〇三―〇七年度の五年間で、年間平均約七十人が三号被爆者認定の申請をしているが、半数以上が却下されている。この中には他の地域でなら手帳が交付されたケースもあるだろう。
原爆投下から六十四年。被爆者に残された時間は少ない。広島市を含め行政側は認定基準統一への検討とともに、審査結果の見直しを行うべきだ。
(2009年3月27日掲載)