政府が27日、北朝鮮の長距離弾道ミサイルの落下に備え、法律上は公表する必要がない自衛隊法82条2の3項に基づく「破壊措置命令」の発令をあえて発表したのは、緊張を高める北朝鮮に対し、毅然(きぜん)とした姿勢を示す必要があると判断したためだ。北朝鮮への強硬姿勢と併せて危機管理に万全を期す政府の姿勢を強調し、政権浮揚につなげたいとの思惑も見え隠れする。【古本陽荘】
政府が27日に命令を発令し、北朝鮮への緊張感を国内外に高めつつあるその裏で、今回準備されているミサイルが日本に落下する可能性について「ほとんどない」(内閣官房幹部)との見方が実は支配的だ。
準備されている「テポドン2号」の改良型とみられるミサイルは、射程が8000キロとも言われ、北朝鮮から1000キロ程度の日本の上空では宇宙空間を飛び越える。日本に被害が出るとすれば、1段目のブースターが日本海に落下した後、2段目のブースターが故障し、角度を変えて落下する場合などが想定される。だが、実際には「飛び方や距離を考慮し、故障の可能性を掛け合わせると落下の確率は非常に小さい」(同)のが実情だ。
にもかかわらず、政府は公表の必要がない3項による破壊措置命令を発表し、政府の取り組み姿勢を明確にする選択をした。航空自衛隊の地上配備型の迎撃ミサイルPAC3の展開場所まで公表する異例の対応ぶりだ。
国民には「事前に住民は特別な構えをする必要はない」(同)と冷静な対応を要請。その一方で、北朝鮮に対しては「人工衛星であれミサイルであれ、我が国の領土の上を飛んでいくのは極めて不愉快だ」(浜田靖一防衛相)と圧力を高める機会ととらえる硬軟の「使い分け」の姿勢がうかがえる。
麻生太郎首相は、06年に北朝鮮が核実験を実施した際、国連安保理で日本が議長国として経済制裁発動を実現した際の外相。首相周辺からは、「この局面でしっかり国際世論をまとめることができれば、政府への信頼感が出てくるはずだ」と政権浮揚への期待の声が漏れる。
自民、公明両党の北朝鮮ミサイル問題対策本部(本部長・細田博之自民党幹事長)は27日の会合で、北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射した場合、政府の発表から3時間後に緊急会議を開催することを決めた。政府側に状況の説明を求める。【松尾良】
毎日新聞 2009年3月27日 21時42分(最終更新 3月27日 23時25分)