◆MKの悪を支えているもの その4
-2009/03/26 02:29
第四章 MKを実質的に育てたのは誰か
MKという悪のシステムをここまでのさばらせた件について、直接的に責めを負うべきは厚生労働省の労働局です。形式的にはそうなります。
給与が「売上マイナス経費」というMKの給与システムは、低売り上げゾーンにおいて最低賃金法に違反しています。給料ゼロ訴訟はその当たり前のことを訴えたもので、裁判所が原告の給与明細などを証拠認定すれば結果は明らかではないかと私は思います。
さらにこの給与システムは高売り上げゾーンにおいても法令に反しています。
改善基準告示関連通達(93号通達)の内容(抄)
(平成元年3月1日基発第93号「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準について」)
1 保障給
歩合制度採用の場合は、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めること
2 累進歩合制度
累進歩合制度(トップ賞、奨励加給含む)は廃止すること
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/11/h1111-3.html
MKの給与システムは究極の累進歩合であり、どう見てもこの通達に反しています。
通達というものは守られなければ意味がありませんし、役所は通達を出したなら守らせなければなりません。給与システムとして根本的にルール違反しているMKを野放しにしているのは行政の「不作為の罪」であり、担当の役人は公務員として仕事をしていないと言わざるを得ません。明確な国民への背任です。
労働局は21時間ルールや262時間ルールなどの個々の違反は取り締まっています。しかしこの累進歩合禁止規定への違反は取り締まっていません。21時間ルールは場合によってはお客さんの都合でやむなくオーバーすることもあるものですが、累進歩合については「やむを得ず破る」性質のものではありません。最初から破るつもりがなければ破れるものではありません。罪としては、こちらの方がよほど重大です。
MKは労働局の不作為を前提に法令に反する給与システムを導入し、自らはリスクを完全に回避してこれを労働者に押し付け、もって労働者に過剰なプレッシャーを与え、システムそれ自体に内在する巨大な増車圧力によって参入や増車を繰り返し、共有地を蚕食してきました。悪いのは労働局です。仕事をしない労働局です。利用者の敵です。税金泥棒と呼びましょう。
しかし…です。「累進歩合禁止」の規定を正確に適用すると大多数のタクシー会社がアウトになってしまうという現実があります。こんな状態で労働局の不作為の罪を問えるか、税金泥棒呼ばわりできるかという問題が出てきます。常識的に考えて厚生労働省に全責任を押し付けるのは酷であり不当です。
累進歩合禁止規定の無視、経営責任の放棄、タクシー経営の途上国型への退化――これらの「MKの悪」は、何のことはない、現在のタクシー事業者の多くが現実にやっていることです。単にMKの方が悪さの程度が甚だしいというだけです。
私はMKを実質的に産み育てたのは現行のタクシー事業者そのものではないかと感じています。業界がもっときちんとしていればMKも大阪ワンコインもなかったように思います。
MKが違法行為をしているのはどうやら間違いなさそうであり、業界がMKを非難するのは正しいと思いますが、そのMKを生んだ原因が業界側にもあることを、どのくらいの人たちが理解しているのでしょうか。乗務員を足切りと累進歩合で動かそうとしている経営者は、自分の心の中にMK的要素があることを自覚するべきでしょう。そういう人たちがMKを非難しても世の中の理解を得にくいのは当たり前だと思います。
第五章 MK的経営を撲滅するには
業界が目標期限を決めて累進歩合を止め、MK的経営から足を洗うと決断することです。その流れが本物になれば、労働局も累進歩合禁止規定をきっちり適用できます。
累進歩合からの脱却は減車に似ています。すなわち、自分だけやれば損しますがみんなでやれば基本的に誰も損しません。そして新しい世界では乗務員を吟味し、本当の意味でモティベートした企業が勝者になります。これはタクシー乗務員の質を高める方向です。利用者の利益になります。
累進歩合から単純歩合、そしてさらには時間給へと進化していったとき、タクシー会社は効率を重んじる普通の会社になり、タクシー乗務員の社会的地位は必ず上がるでしょう。また時間給の世界に完全に移行したとき、人為的な減車メカニズムは必要なくなります。経済メカニズムのみで供給量がほとんど最適化されます。おそらくこれが業界の最終目標になると思います。