多くの「ハイテクおたく」の例にもれず、我が家は1990年代後半まで、ビデオ、パソコン、MDレコーダ、テレビなど、SONY製品であふれていた。しかし、今や10年以上前に買ったテレビ1台を残して、SONY製品はすべてなくなった。なぜか。 ちょうど90年代後半から2000年代前半にかけて、わたしがハイテク系の耐久消費財を選ぶときに、SONY製品を敬遠しはじめたからだ。 90年代後半、多くのハイテク家電メーカーの中でSONYはぬきんでた存在だった。常に新しい、革新的で質の良いハイテク商品はSONYから出る、というイメージがあった。そのため、ちょっとしたものを買うときでも「SONY」のブランドを特に気にして買っていた。同じ性能の製品が他社よりも少々高くても、SONYの製品を選んで買っていた。 SONYやその周辺の会社と仕事をしていたので、SONY社内の様子はよく聞いていたし、見ていた。「この会社は、有名大学を出ていても出世に関係ない。すべて出来高で給与や待遇が決められる。倉庫番をした高偏差値大出身者もいた」などと聞いたことがある。「噂」の域を出ないかもしれないこんな話を聞いたとき、「SONYってのは、技術を重く考える素晴らしい企業なんだな」と感じたことを覚えている。 そのSONYが、「メモリースティック・マイクロ」という、携帯電話向けの極小のメモリーメディアを発売することになった(5月22日付ニュースリリース)。今もまだ多くいるネット上の「SONYウォッチャー」たちにとって、これが大きなニュースになっている。携帯電話に対応した極小のメモリースティックだそうだ。 ご存知のように、現在のデジカメ、携帯電話には、画像データをためてそれをPCなどに転送する媒体として、本体から取り外して使える「フラッシュメモリ」を使ったメモリーカードが使われている。 このメモリカードの規格は大雑把に分けても数種類あり、これらが各社のデジカメ、パソコンなどで標準規格として使われている。現在このメモリカードの規格で一番普及しているのが、Panasonicなど多くのメーカーが推進する「SDメモリカード」だ。デジカメのメモリカードはほとんどこのSDメモリカードになった、と言っても言い過ぎではない。 勝負がついた!?SDカード(右)とソニーのメモリースティック(撮影:OhmyNews編集部) この標準規格があるために、Nikonのデジタル一眼レフで撮った画像も、そのままPanasonicのPCに挿して、画像をPCに取り込む、などということができる。SDメモリカードには、良く使われている形状として「SD」「miniSD」「microSD」という規格があり、形状はそれぞれ違うものの、それぞれを相互に接続できるアダプタがメモリカードのおまけとしてついてくることが多いため、互換性にはほとんど問題がない。 特に携帯電話に使われている「microSD」メモリカードは、いまや秋葉原で一流メーカー品が1GB(ギガバイト)で1500円を切る値段で売られている。1GBといえば、通常のデジカメのメモリとして使うと、高精細度の画像で200枚は余裕で入る大きさだ。また、最近のデジカメのほとんどはこのSDメモリカード規格を使っている。大量に出回るため、容量あたりの価格も安い。 ところが、これらのメモリーカードの規格で、SONY一社だけが推進している規格がある。それが「メモリー・スティック」だ。 PSP(Play Station Portable)などのゲーム機、デジカメ、パソコンなどをSONY製品でそろえると、そのすべてにこのメモリースティックのスロットがついていて、SONY製品ではどうしてもメモリースティックを使わざるを得ない。そして、そのメモリー・スティックもまた、時代とともにさまざまな規格を作ってきたため、「メモリースティック」という名前の規格のメモリメディアの種類だけで、なんと十数種類もある。 ざっと挙げてみただけで、これだけあるのだ(手元にあるメモリカード読み取り装置のカタログから)。 メモリースティック なんと、これらの規格間で互換性がないものもある。「え?同じメモリースティックなのに、データの転送ができないの?」という場合も多々発生する、ややこしさだ。 SONY自身もこの煩雑さを知っているのか、SONY製デジカメなどの中には、メモリースティック以外の規格のメディアが使える製品もある。 ところで、SONYファンだった我が家がSONY製品を敬遠するようになった理由の1つが、この「メモリースティック」である。 製品の世代の違いで互換性が必ずしもない不便性に加え、他社製品を併用する場合も多いので、メモリースティックですべてをまとめるわけにいかないのだ。また、同じ容量だと、メモリースティックの方が割高な点も敬遠の理由だ。1社の規格で、規模の効果が働かないから、コスト高になってしまうのだろう。 「メモリースティックを敬遠する⇒SONY製品を敬遠する」という図式が、我が家ではできあがってしまったのだ。 かつてビデオテープの規格では「VHSとベータのたたかい」があった。結局はSONYが敗北した。しかし、敗北を認めたSONYは、むしろそのことによって、ファンの多くの信頼を得た。企業として正しい判断だ、という了解が社会的に広くあったからだ。また、ベータを捨てたときの新聞広告など、その後のフォローもよく、それが話題になったりもした。 今度私が買おうと思っているデジカメはSONYにははらない。「メモリースティック」がある限り。 「メモリー戦争」の帰趨がほぼ決まったといえる今、SONYはいさぎよい判断を下し、自らの敗北を認めるかどうか? その行方を、SONY製品を買わなくなった1SONYファンは見守っている。
248点
あなたも評価に参加してみませんか? 市民記者になると10点評価ができます!
※評価結果は定期的に反映されます。
|
empro は OhmyNews 編集部発の実験メディアプロジェクトです |