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【社会】

相撲八百長報道 名誉棄損4290万円賠償命令

2009年3月27日 朝刊

 週刊現代の八百長疑惑報道で名誉を傷つけられたとして、日本相撲協会と横綱朝青龍ら力士三十人が、発行元の講談社や執筆者らに計約六億一千万円の損害賠償と謝罪広告を求めた訴訟の判決で、東京地裁は二十六日、「記事は真実と認められない」として、講談社などに四千二百九十万円の支払いと記事取り消し広告の掲載を命じた。名誉棄損訴訟一件当たりの賠償額としては最高額とみられる。

 賠償額の内訳は朝青龍に千百万円、大関千代大海ら六人にそれぞれ二百二十万円、横綱白鵬ら八人にそれぞれ百十万円、残りの十五人にそれぞれ二十二万円。相撲協会には六百六十万円。

 中村也寸志裁判長は「朝青龍らに数分程度取材したにすぎず、取材は極めてずさん。裏付けも極めて不十分」と指摘。「八百長があったと認められれば力士生命にかかわり、相撲協会の存立自体の危機にもなりかねない」と高額な賠償を命じた理由を述べた。

 朝青龍については「記事の見出しを含め、関脇、大関のころから八百長をしていると断定している」と述べ、力士の中で賠償額を最も高くした。

 講談社側は、元小結の板井圭介氏の法廷証言などを記事の根拠と主張したが、中村裁判長は「八百長の合意や金銭の授受状況について、具体的な内容を認識していない。真実と裏付ける証言ではない」と退けた。

 週刊現代は二〇〇七年二月三日号の「横綱・朝青龍の八百長を告発する!」との記事など三週にわたって八百長疑惑を報じ、関与した力士として朝青龍や白鵬らの実名を挙げていた。

◆影響力重視 萎縮効果懸念も

 名誉棄損訴訟で賠償額の算定は、社会的影響や低下した信用などが判断基準になる。二十六日の東京地裁判決が四千万円を超える賠償を命じたのは、発行部数が七十万部を超える週刊誌の影響力を重視したためだ。

 判決は「具体性、迫真性があり、読者に真実であると受け取られやすくなっている」と指摘。高額賠償を命じた理由に読者が記事から受け取った印象の強さを挙げた。

 原告の数が多数に上ったことも影響しているが、一件の名誉棄損訴訟では、過去最高額とされていた保険金殺人疑惑報道に対する約千九百万円を大幅に上回った。

 判決は裏付けを欠く安易な報道を厳しく戒めているが、記事を執筆したジャーナリスト武田頼政さん(50)は「迫真性があると認めながらこの金額はきつい。今後、八百長問題を書こうとしている人に影響を与えるのは申し訳ない」と述べ、判決による萎縮(いしゅく)効果を懸念する。

 一方、日本相撲協会側の代理人弁護士は「裁判所は被害の重大性を評価してくれた。米国に比べればはるかに低いが、裁判官の認識が以前とは変わってきているのでは」と分析した。

 週刊現代の報道をめぐっては、相撲協会と北の湖前理事長が損害賠償と謝罪広告を求めた訴訟で今月五日、東京地裁が講談社などに千五百万円の賠償を命じたばかり。

 八百長疑惑を報じた週刊新潮も貴乃花親方らが起こした訴訟で、東京地裁は二月四日、「防止のための対策を取らなかった重大な過失がある」と新潮社の社長にも異例の賠償を命じた。

 

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