No385 (2009/02/27)
新エネルギーは環境破壊 そのE
さて、ここまでの検討で風力発電の実像が明らかになってきたと思います。
風力発電の特性は、自然風という制御不能でエネルギー密度の低い大気の運動エネルギーを利用すると言うことにつきます。
その結果、不安定なエネルギーを捕捉する為に、発電装置は最大のエネルギーに対応する規模が必要ですが、運用期間の大部分はその発電能力よりはるかに低いレベルの運転しかできない(平均的な設備利用率は20%程度か?)ために供給発電電力に対して過大な設備を必要とします。更に、元々自然風のエネルギー密度は低いため、発電機を駆動するためにエネルギーを捕捉するための機構が極めて大規模になります。
こうして、通常の工場生産による火力発電に対して、発電電力量当たりの施設規模が圧倒的に大きなものにならざるを得ないのです。その結果、電力の材料になる大気の運動エネルギーという自由材を原料としながら、これを電気エネルギーに変換する装置=風力発電装置のエネルギー・コストが大きくなる結果、生産される単位電力量当たりの石油消費量において石油火力に勝るとは言い難いのです。
更に、蓄電装置を併設したとしても出力を制御することは不可能であり、将来的にも電力需要の数10%をこれで賄うことなど技術的に不可能なのです。
風力発電が火力発電に対して圧倒的に大きなものになるといっても具体的なイメージがつかみにくいかもしれません。ここで簡単な比較をして見ることにします。
例えば、鳥取県放牧場風力発電所の定格出力1000kWの風力発電装置について考えてみることにします。この例では、ブレードの長さは29.8m・総重量は4.5t、ナセル(発電機部分)総重量は42.2t、タワー総重量は112.7tです。

平均的な設備利用率を20%とすると、その出力は 1000kW×0.20=200kW になります。もう少しなじみのある単位で表してみましょう。私たちが日常使う動力装置である自動車のエンジン出力の単位である馬力で考えてみましょう。日本の計量法では、『1馬力=735.5W=0.7355kW』と定義されています。これを用いると、200kW=272馬力になります。
つまり、この高さ100mにも達する巨大な1000kW風力発電装置は自動車1台分のエンジン程度の出力しか発生していないのです。自動車のエンジンに、これに見合う発電機を付加する事でこの風力発電と同等、いや発電出力の安定性を考えればそれ以上の高品質の電力を供給できるのです。風力発電装置と言うものが如何に資源を大量に必要とする発電装置であるかがわかると思います。
参考写真:YANMAR製のディーゼル常用発電機。『定格出力』200kW出力でサイズは軽自動車ほど、重量は3.9t。
ではこの風力発電装置に関わるエネルギー・コストを再び考えることにします。まず連載の初回に示した試算の結果を示しておきます。
| 定格出力 | 1,000kW |
| 設備利用率 | 25% |
| 初期費用 | 300,000,000円/1,000kW(内50%NEDO補助) |
| 発電経費 | 278,145,000円/(1,000kW×17年間) |
| 耐用年数 | 17年 |
| 売電価格 | 11.5円/kWh |
| 電力原価 | 15.5円/kWh |
この試算はかなり楽観的な条件でしたので、実際の既存風力発電施設の実績を元に多少修正することにしましょう。具体的な数値を示したデータが少ないのですが、ネット上で集めた実績を次の一覧に示しておきます。
まず、設備利用率については、風力発電の故障の多さから、耐用期間中全てを通算して25%と言うのは平均的に見てかなり高目の数値のようです。北海道経済産業局の報告から、計画設備利用率から5%程度低い値というのが妥当な数値でしょう。ここでは一覧表の実績のある施設の平均値として設備利用率を18%としておきましょう。
同じく実績から、初期費用は3.02億円/1000kW程度なので、これは試算の値はそのまま使えそうです。耐用期間中の総発電量は利用率を18%として次の通りです。
1,000kW×24(h/日)×365(日/年)×17(年)×0.18=26,805,600kWh
発電電力量当たりの初期費用=設備費用は次の通りです。
302,000,000円÷26,805,600kWh=11.2円/kWh
次に、発電経費については、北海道経済産業局の報告から、突発的な事故の発生の多さを考慮して、30%割増することにすると次の通りです。
1.3×278,145,000=361,588,500円/(1,000kW×17年間)
発電電力量当たりの発電経費は次の通りです。
361,588,500円÷26,805,600kWh=13.5円/kWh
この数値は、独立行政法人経済産業研究所の戒能一成氏による『電源構成試算モデルと発電コスト比較について』(平成15年7月)で示された数値(小規模15.5円/kWh〜大規模11.9円/kWh:平均13.7円/kWh)から見ても妥当な値だと考えます。
以上から、風力発電の発電単価は(11.2+13.5)=24.7円/kWh≒25円/kWh程度だと考えられます。以上の結果を表にまとめると次の通りです。
| 定格出力 | 1,000kW |
| 設備利用率 | 18% |
| 初期費用 | 302,000,000円/1,000kW(内50%NEDO補助) |
| 発電経費 | 361,588,500円/(1,000kW×17年間) |
| 耐用年数 | 17年 |
| 売電価格 | 11.5円/kWh |
| 電力原価 | 24.7円/kWh |
風力発電の電力原価に占めるエネルギー・コストを20%とすると、
24.7円/kWh×0.2=4.94円/kWh
になります。
これに対して火力発電の電力原価は7.3円/kWh程度であり、原価の60%が燃料費、残りの40%の費用の内の20%がエネルギー・コストとすると、燃料費とその他のエネルギー・コストの合計は、
7.3円/kWh×0.6+(7.3円/kWh×0.4)×0.2=4.97円/kWh
となり、差がないことがわかります。つまり、風力発電の発電電力量当たりの石油消費量は、燃料費を含めた石油火力発電とほとんど同じなのです。
ここの検討では、供給電力の品質について考慮していません。今後、組織的・大規模に風力発電を無理に増やそうとすれば、系統連系からの解列による設備利用率の低下、あるいは解列を回避するための風力発電電力の平滑化のための追加的な設備費用の増大が避けられません。つまり、今後の風力発電電力のエネルギー・コストは更に大きくなるのです。
これに対して、火力発電では設備更新時には、ガス・タービンと蒸気タービンを組合わせたいわゆる『コンバインド・サイクル』と呼ばれる熱利用効率の高い最新の火力発電設備に置き換わるため、燃料費を含めた単位発電電力量当たりのエネルギー・コストは低下することになります。
これらを考慮すれば、石油利用効率が低く、その上低品質で制御不能な上に高価=資源利用効率の低い風力発電をあえて導入することには全く合理性は無いのです。
No384 (2009/02/26)
新エネルギーは環境破壊 そのD
さて、連載に戻ることにします。これまで、風力発電装置単体のしかも絶対的な発電量にだけ着目して検討をしてきました。電気とは、消費するために発電を行うのですから、発電は需要とともに語らなければなりません。
ご存知のように、電力需要は大まかには一日サイクルの変化をしながら、1週間サイクルの変化、更に1年間周期のサイクルを持って変動しています。
発電電力は電力需要に即応するように供給されています。本質的に電気というエネルギーは発電と同時に消費されていくという特徴があります。例外的には、余剰電力による揚水発電所における水の汲み上げによって、水の位置エネルギーとして蓄えることはありますが、汲み上げのポンプアップの消費電力まで含めると、基本的に常に発電電力≒消費電力と考えて差し支えないでしょう。これを実現するために、常に消費電力を監視しながら直近の未来の電力需要を予測しながら発電電力を調整しているのです。
このように、発電電力は高度な制御が必要なのです。現在日本では、核暴走の危険を持ち、こまめな出力調整になじまない原子力発電と言う『お荷物』で一定の(ベース)電力を供給し、主に火力発電と水力発電によって需要の変動に対応しています。
さて、この高度に制御された電力供給システムに制御不能な風力発電システムを組み込む(系統連系)と言うのはかなり無謀なことであることは容易に想像されます。
このように激しく変動する『低品質』の電力供給装置である風力発電を既存の電力供給システムに組み込むことは、システム全体の安定運用に対して多大な負担を強いることになります。具体的には、電力調整能力の高い火力発電に対する負担の増加、したがって火力発電の発電効率の低下につながるのです。
本来ならば、風力発電を導入することによる既存火力発電の発電効率の低下あるいは設備利用率の低下に関わるコストは風力発電事業者が負担すべきもの、つまり風力発電コストに計上すべきものですが、現状ではこれは行われていないようです。
風力発電の電力供給量はおそらくどの電力会社においても全供給量の1%のオーダーであろうと思われますが、電力の安定供給に責任を持たなくてはならない電力各社は既に既存の電力供給システム内では風力発電の不安定電力に対応することが困難になりつつある(供給電力の品質の低下、周波数・電圧の変動。)として、風力発電の解列(電力系統から切り離す)を前提に風力発電を導入する様になっています。これは電力供給者の社会的責任から当然の処置だと思われます。
それにもかかわらず、無能な国の役人はCO2排出量削減のためとして更に風力発電の導入を進めようとしています。無理やり風力発電を『普及』させるための施策の一つが風力発電に併設する蓄電装置に対する国家補助を行うと言うものです。これはもうとんでもない愚策です。ただでさえエネルギー・コストの高い風力発電に更に蓄電装置を加えれば、蓄電装置を含めた風力発電装置のエネルギー・コストは更に悪化し、石油消費量は増加する一方です。
また、次図に示すとおり、現在考えられている蓄電池による風力発電出力の平滑化技術は、短時間の激しい出力変動をある程度『平滑化』する技術であり、発電出力を完全に制御することは不可能であり、風力発電による既存発電システムに対する負担が無くなるわけではありません。
次の図は、九電による蓄電池導入コストの試算です。ここに示したのは、10分間の電力平滑化を想定したモデルです。
一般的に、同じ量の電力量を供給するための施設が大きくなるほど、供給される電力のエネルギー・コストは大きくなるのです。
No383 (2009/02/26)
新エネルギーは環境破壊 番外編
〜太陽光発電電力の高値買取は亡国の経済政策〜

この連載で風力発電の検討の後に太陽光発電について触れる予定でしたが、ご承知のように、太陽光発電電力について、電力会社に高値買取を義務付ける制度を導入すると言う、環境政策としては全く愚かな、また経済政策としては消費者を馬鹿にした施策が実施されようとしていますので、急遽その速報を書くことにします(記事参照:大分合同新聞2009/2/25朝刊)。
まず経済政策として考えます。以前行われた個人で太陽光発電を設置しようとする者に対する国家の直接補助は、
太陽光発電設置者をトンネルとして国税を太陽光発電パネル製造メーカーに流す制度でした。
今回は、
電力各社が高値で太陽光発電電力を買い取り、これを価格転嫁することによって全く恩恵を受けることのない消費者・大衆から徴収して太陽光発電設置者を介して太陽光発電パネル製造メーカーに流すと言うものです。何のことはない、国や電力各社は身銭を切ることなく、消費者から搾り取った金で太陽光発電パネル製造メーカーを太らすと言う制度なのです。
次に環境対策としての愚かさです。例えば、個人住宅用の3kW出力の太陽光発電装置の価格は200〜300万円程度です。ここでは250万円としておきましょう。3kWシステムの年間発電量は3000kWh程度です。耐用年数を17年間とすると、総発電量は51000kWhです。kWh当たりの設備費は、メンテナンス・コストを無視しても49円/kWh程度になります。この設備費用の中に含まれるエネルギー・コストは費用の20%として、9.8円/kWhになります。これは現在検討を進めている風力発電よりも更にエネルギー浪費的なシステムであることを示しています。
連載@で用いた値を使うと、消費する重油量は9.8/20=0.49L/kWhになります。重油0.49Lのエネルギー量は0.49L×10.5kWh/L=5.145kWhになります。
つまり、太陽光発電で1kWhの電気エネルギーを供給するために、燃焼エネルギー5.145kWh分の重油を消費するのです。エネルギー産出比=0.193となり、石油火力発電の値0.35よりもはるかに低いのです。つまり、同量の電力を供給する時、太陽光発電は火力発電に対して(0.35/0.193)=1.8倍程度の重油を消費しているということです。
つまり、今回の制度は「太陽光発電は石油消費の削減につながる」と言う虚偽宣伝によって、消費者・大衆に「電気料金引き上げ」を認めさせ、実質は「石油消費を増大させて石油業界を喜ばせ」その上「騙してかき集めた金を太陽光発電パネル製造メーカーに大盤振る舞い」して、通常の市場では売れるわけのない製品を無理やり製造していると言うのが実像なのです。
この制度の導入にはお馬鹿な民主党をはじめ、社民・共産の各党も諸手を挙げて賛成するのでしょう・・・。しかし、このHPは断固この愚かな制度の導入に反対であることを表明するものです。HP閲覧者諸賢のご協力を強くお願いいたします。
No382 (2009/02/25)
新エネルギーは環境破壊 そのC
風力発電の動力源は制御することのできない自然風です。その結果、風力発電の発電能力は風まかせの不安定なものになることが避けられず、前回示した通り、計画段階で発電能力を的確に設定(推定)することは困難、というよりも不可能と言うべきかも知れません。
その結果、風力発電の運転は通常運転中であっても通常の工業的な発電施設に比較して大きなリスクを内包することは強く認識しておかなければなりません。更に、外気に曝された環境での運用には自然災害がつき物であり、突発的な事故の危険性が常に存在しています。
まず、
『「北海道における風力発電の現状と課題〜稼働状況とメンテナンスの実態〜」平成17年3月15日北海道経済産業局』から、風力発電の事故の発生状況を見ておくことにします。
この結果から、故障の程度は様々ですが、ほとんどすべての風力発電装置で年に1回程度の突発的な故障が起こっていることがわかります。風力発電装置においては突発的な故障は特殊な状況ではなく、故障することが常態であることを考慮しておかなくてはなりません。
突発的な事故の発生は二つの点で風力発電のエネルギー・コストを押し上げる要因になります。
まず第一に、稼働時間の損失です。レポートのグラフから平均的な稼働時間の損失の概略を推定すると16日/年程度になります。これは年間の最大稼働時間(365日)の4.4%にあたります。故障がないときの年間設備利用率が25%ならば、突発的な故障によって平均的に年間25×0.044=1.1%が失われることになります。故障によって耐用期間中の供給可能電力量が減少することが第一の損失です。
次に、故障によって補修のための付加的な資源とエネルギーの投入が必要になります。この付加的な補修費用の支出が第二の損失です。
特に大規模な事故による故障では、風力発電の致命的なダメージになる可能性があります。大規模事故の事例を少し見ておくことにします。事故の形態別には、ブレードの破損、発電機の破損、タワーの倒壊と言うことになります。この種の大規模な事故の補修費用は数1,000万円以上と言うケースも少なくなく、倒壊にいたっては場合によっては億円単位の支出になることも考えられます。
大規模事故の原因としては、落雷、強風が主要なものです。このいずれの原因も屋外環境に曝された風力発電装置の形状から避けることの出来ないもので、根本的な回避策は残念ながら存在しません。
大事故に対してとり得る対策は、風力発電装置を構造的により強固なものにすることです。しかし、これは初期投資額の増大につながり、エネルギー・コストの悪化につながります。ブレードの強化による重量の増大は発電能力の低下要因になるかもしれません。しかし、風力発電装置を強固なものにしたとしても落雷による事故は避けられないでしょう。
ここで、前にも紹介した大豊風力発電所の稼動実績から、具体的な事故の影響を見ておくことにします。
発電実績から、長期間にわたって発電を停止している期間はこの10年間に3回であることがわかります。
H.16〜H.17年 8ヶ月間
H.18、H.20年 各2ヶ月間
この3回はかなり大規模な事故のようです。この明らかな事故による稼動時間の損失は、
(8+2+2)÷(12×9+9)×100=10.3%
ですから、かなり大きな損失につながっています。更にこれだけ長期の補修期間を要する事故であることを考えると、復旧のために投じられた資源やエネルギー量もかなり大きいことが予想されます。
この大豊発電所の事例が特殊なのかどうか不明ですが、風力発電の計画に当たってこの種の災害による影響をある程度考慮することは行っておくべきことだと考えます。
風力発電の導入に当たっては、風力発電にとって避けられない費用である自然災害による事故を含めた突発的な故障に対して、既存風力発電所のデータを蓄積して、故障に対するリスクを適切に評価しておくことは不可避であろうと考えられます。
No381 (2009/02/24)
新エネルギーは環境破壊 そのB
今回は、風力発電の発電量の推計について検討することにします。
風力発電愛好者の方によりますと、現在の標準的な大型風力発電では、『平均風速が6.5m/秒程度で設備利用率は25%程度になり、EPTは1年程度』というのが常識のようです。EPTが1年については既に検討したとおりありえない数値ですが、ここでは設備利用率について考えることにします。
まず、設備利用率の定義ですが、これは『定格出力で発電し続けた場合の発電電力量に対する実際の発電電力量の割合』で表します。通常『定格』という言葉は、『定常的に安定して』と言う意味ですから、風力発電の定格出力の定義にはいささか違和感を覚えますが、とりあえずこのままこの言葉を使うことにします。
既に前回述べた通り、風の持つ運動エネルギーは風速の3乗に比例しますから、定格出力に達する風速をAm/秒、実際の風力発電所を通過する平均風速をBm/秒とすると、設備利用率は次の式で推定することができます。
設備利用率=(B/A)3×100(%)
今、B=6.5m/秒、設備利用率を25%とすると、定格出力になる風速は次のように求めることができます。
25=(6.5/A)3×100 より A=(6.53/0.25)1/3=10.3m/秒
以上から『平均風速が6.5m/秒程度で設備利用率は25%程度』と言うのは、定格発電能力に達する風速が10m/秒程度と言うことを示していると理解されます。
以下、風力発電の計画の手順を踏みながら、発電能力推計における問題点を示していくことにします。
■風速の推定
通常、過去の気象観測データから風力発電の適地を探します。建設場所が決まると、その場所(あるいはその近く)で通常1年間の風況調査が行われることになります。
接地層では風速の鉛直分布が地表面の状態や地形によって強く影響を受けることになります。現在、風力発電施設の大型化によって、ハブ高(ブレードの回転中心)は50〜100m程度になっています。しかし風況調査では、調査費用の問題もあり、実際の風力発電のハブ高よりも低い位置で風況を調査することになります。その結果、風況調査のデータを元に風速の鉛直分布を仮定して高度変化によって風速を割増することでハブ高の位置における風速を推定することになります。
第一の問題点は、この高度変化による風速の推定の信頼性の問題になります。通常風力発電における風速の推定にはべき乗則が用いられているようです。例えば次のようなものです。
U2/U1=(Z2/Z1)1/n
ここに、
U2:地上高Z2 における風速
U1:地上高Z1 における風速
n :指数法則のべき指数;ここではn=5
あくまでもべき乗則で表されるのは仮定の風速分布ですから、風力発電建設場所周囲の環境条件や風の特性による影響を正しく反映しているかどうか不明であり、必ずしも正しい推定値を与える保証はありません。また、季節風帯に属する日本では、夏と冬の卓越風の風向が異なり、風向によって影響を受ける地表面の性状や地形が異なるため、一律の分布を用いて風速を推定することにも問題があります。
第二の問題は、観測期間の問題です。通常、季節変化を捉える目的で観測期間は1年間です。しかし、当然のことですが年毎に風況は必ずしも一定ではありません。前回示した大豊風力発電所の発電実績を見るだけでも年毎に大きな変動があることをうかがわせます。観測した年次のデータだけで耐用期間中の平均的な風況を適切に推定できるかどうかは全く保証がありません。
第三に、これは次節で扱う発電電力量の推計とも関係のある点ですが、風況調査において風の乱れ強度を観測していますが、乱流の特性を風力発電能力にどのように反映するかという手段を私たちは持っていないのです。乱流の特性については未だ理論的に定式化することが出来ていない問題であり、例え乱れの性状を観測しても、それがどういう影響を与えるのかは実際に風力発電装置を回してみなければわからないのです。
おそらくブレードの動特性の問題は将来的にも理論化すること、あるいは風洞実験で再現することも難しいでしょうから、本来ならばこの種の問題は既設の風力発電について詳細なデータ収集を行い、経験的に推定精度を上げる努力をしなければならない問題でしょう。
風力発電が計画の発電電力量を得られない問題は、風況調査が杜撰なことが主要な原因だと言う者もいます。しかしながら、例えマニュアルどおりの風況調査を行ってもここに示した問題は回避できないのであって、調査が杜撰だからと切り捨てられる問題では無いのです。むしろ的確な推定ができないと言うのが風力発電の本質的な特性なのです。
■
発電電力量の推計
既設の風力発電施設では、当初計画の発電電力量が得られずに、経済的に破綻する事例も少なくないようです。系統的な統計データとして
『「北海道における風力発電の現状と課題〜稼働状況とメンテナンスの実態〜」平成17年3月15日北海道経済産業局』を参照することにします。
この報告書から、計画設備利用率と実績利用率についての調査結果を示したのが次の図です。

図の赤い線上は計画と実績が等しく、赤い線より上は実績の方が計画を上回る場合であり、下は実績が計画を下回る場合に対応します。図から、半数以上の発電施設で計画を下回っていることがわかります。
計画を下回った理由として、計画通りの風況が得られなかった、故障による停止が多かった、パワーカーブ通りの性能が発揮できなかったというのが主要な要因として挙げられています。
計画通りの風況が得られない点については前節で問題点を指摘しました。故障については後で触れることにします。ここでは、パワーカーブによる発電電力量の推計についての問題を考えることにします。
まず、パワー・カーブから発電電力量を算出する方法を示しておきます。
風力発電施設への入力風速波形を与えると、入力風速に対応したパワー・カーブ上の点によって発電出力を得ることができます。こうして得られた発電出力波形を時間軸の方向に積分することによって発電電力量を求めることが出来るのです(出力波形の着色部分の面積)。
実際には、風況調査の結果を元に、風力発電装置のハブ高における風速を推定し、この風速を幾つかの階級に分け、各階級の範囲に含まれる風の吹いている時間を積算し、各階級の中心値の風速に対するパワー・カーブの発電能力との積を求めて、これをすべての階級にわたって加算することによって求めています。
例えば、風速3〜5m/秒という階級に含まれる風が吹く積算時間が100時間、風速3〜5m/秒の中心の風速である4m/秒における発電能力を20kWとすれば、この階級に含まれる風による発電量は
20kW×100h=2000kWh
として求めるのです。これをカット・イン風速〜カット・アウト風速の範囲で加え合わせることで発電電力量を推計するのです。
このパワー・カーブによる発電電力量の推計は、乱れのない風とは異なり実際の風の乱れの特性を適切に反映できないという致命的な欠陥があります。それが報告書の『パワーカーブ通りの性能が発揮できなかった』という要因として挙げられているのです。
この件については、『電中研報告「風力発電の出力変動特性の分析と発電出力の簡易推定手法の開発」』の中で次のように報告されています。
背 景
最近、風力発電の伸びが顕著であるとともに、RPS制度の導入に伴い風力エネルギーの利用拡大についても検討されている。しかし風力発電の連系にあたっては、分散型電源の連系一般に関わる課題以外に、出力変動による悪影響が懸念される。一方、風速変動と出力変動の関係については不明な点が多く、広く用いられているパワーカーブによる出力換算の精度は高くない。(後略)

電中研報告の図からわかるように、風力発電の発電能力は、実際にはパワー・カーブからかなり外れて激しく変動していることがわかります。おそらくこの変動幅は乱れの強さに大きく依存するものと考えられますが、乱れの強さを如何に推定精度の向上につなげるかは今後の課題であろうと考えます。
ここの議論とは直接関係ありませんが、定格出力を瞬間的に大きく超えるケースも少なくないように見受けられます。乱れの強さ・突風率という風の性状による発電機の限界的な発電能力に対する定格発電能力の設定もかなり難しい問題と言えそうです。
これらの問題を解析的に計算によって推定することは不可能です。また、実験による推定も非常に困難だと考えられます。
まずデータを収集することが極めて困難なことが大きな問題です。風力発電装置の大型化に伴って、ブレードの回転半径は50mにも達している現在、回転半径内において風速や乱れ強さがどのように分布するのかを継続的に計測して数値化することは技術的にほとんど不可能ではないでしょうか?
次に、それが可能だとして風洞実験でこれを再現することはこれまたほとんど不可能です。乱れの平均的なサイズを再現することすら困難を極めるでしょうが、様々な乱れが混合している非定常な流れを再現することは技術的に不可能です。
現実的に可能なことは、既設の風力発電のデータを系統的に蓄積することで経験的に推定精度の向上を計るしかないでしょう。ただし、それでも気まぐれな風の経年変化は予測できませんからこれにも限界があることを認識しておかなくてはなりません。
No380 (2009/02/22)
新エネルギーは環境破壊 そのA
前回の風力発電のモデル計算によって『風力発電のEPTは1年程度』等と言う主張は、全く非科学的な数値に過ぎないことがお分かりいただけたと思います。この例に限らず、風力発電や太陽光発電をはじめとする新エネルギーについての夢のような説明は、そのほとんどが科学的な実測データによって説明されたことがないのです。楽観的な机上の空論だけが一人歩きしているのです。
それでも、前回の試算について、『条件がおかしい』、『わが町の風力発電の利用率はもっと高い』、『この町の風力発電はほとんど回っていないので利用率は10%未満だと思う』など等、色々な声が聞こえてきそうです。そうです、おそらく10箇所の風力発電施設の運転状況を比べたら、一つとして同じものはないのです。それが風力発電をはじめとする自然エネルギー発電の典型的な特徴であり、そして致命的な欠陥を示しているのです。
あまり多くはないのですが、ネット上に風力発電の設備利用率の実績を公開しているものがあります。それを見るだけでも低い方では10%程度から高い方では30%を越えているところもあります。また同じ風力発電装置でも、ある年の設備利用率は10%台なのに、次の年は20%台ということもあります。また、同じ風力発電施設の隣接した同性能の風力発電装置の月毎の発電量実績の変動傾向や発電電力量はかなり違うということも見られます。風力発電の発電能力とは風力発電装置の設置場所による環境条件に非常に敏感であり、少しの条件の違いで大きく異なるのです。
前述の通り、ネット上には具体的な実績データを公表している風力発電施設は少ないのですが、 『高知県公営企業局』 の施設に関して貴重なデータが公開されています。ここで紹介する大豊風力発電所の諸元は以下の通りです。
大豊風力発電所の建設費は3.76億円です。公開データの発電実績をグラフ化したものを以下に示しておきます。
この施設は、定格出力1,200kW(600kW×2)の施設です。H11年度からH20年度12月までの合計9年9ヶ月間の総発電量は17,577,867kWhです。この間の平均設備利用率は、
17,577,867kWh÷(1200×24×365×(9+3/4))=0.172=17.2%
です。平均的に見ると、比較的優秀な風力発電施設ではないかと思われます。しかし、グラフからわかるように、年毎の設備利用率や月毎の発電量実績は大きく変動しています。年間設備利用率で見ると最低H16年度の5.29%〜最高H14年度の25.07%間で大きな開きがあります。
詳細な検討は後で行うとして、このように風力発電とは非常にばらつきの大きい不安定なシステムであると言うことが本質的な特徴であることを理解していただきたいと思います。
■風力発電の仕組み
まず、風力発電の仕組みについて見ておきます。これは説明の必要も無いことでしょうが、風という大気の流れの持つ運動エネルギーの一部を風車によって捕捉し、この運動エネルギーで発電機を回して電気エネルギーに変換する装置です。発電量は風の強さに影響されることは言うまでもありません。
では風の強さと風の持つ運動エネルギーとの間にどのような関係があるのでしょうか?自然の風のような乱流(色々な渦を含む流れと考えてください)の性質は現在でも良くは解っていないのですが、ここでは乱れのない流れだとして考えることにします。
私たちが日常的に風の強さと言うのは風速で表されています。乱れのない流れの場合、流れの方向に直交する一定の面積を通過する風の持つエネルギーは風速の3乗に比例します。例えば、風速5m/秒の風の持つエネルギーを1とすると、風速10m/秒の風のエネルギーは(10/5)3=8になります。風速15m/秒の風では27にもなります。
東電八丈島風力発電所500kW風力発電施設の説明より
■風力発電『装置』の性能
風力発電装置の性能は『パワーカーブ』で示されることが多いと思います。これは、風力発電施設を通過する風の風速と発電量の推計値をグラフにしたものです。上図に東電のHPからの例を示しておきます。
風力発電装置は、発電機とこれに取り付けられた回転翼(ブレード)によって構成されていますが、風力発電装置を始動するためには、装置の静止回転摩擦抵抗を超える起動力が必要になります。例の場合、その風速は2.5m/秒になっています。これを『カット・イン風速』と呼ぶことがあります。
パワーカーブでは、風速が高くなるにつれて発電量が多くなりますが、その様子は下に凸の曲線で表されています。これが前述のように風速の3乗に比例する曲線だと考えられます。
パワーカーブは、発電量が『定格』に達すると風速に関わらず一定値になっています。風の持つ運動エネルギーは勿論風速の3乗に比例するのですが、定格出力を超えると、発電機の安全性を考慮して、余分な風のエネルギーを受け流すためです。具体的にはブレードの風に対する迎角(ピッチ)を変化させる(この装置のことをピッチドライブと呼ぶようです。)ことによって、あまり多くの風を受けないように調整するのです。
例に示したパワーカーブでは風速10m/秒を越えるあたりからピッチを調整し、14m/秒で定格出力に達し、25m/秒を越えると風力発電装置の安全のために発電をやめるようです。この発電をやめる風速のことを『カット・アウト風速』と呼ぶことがあります。
■自然風の特性と定格出力
少し脱線しますが、私はかつて橋梁の設計に携わっていたことがあります。30年前になりますが、学生時代には研究室の友人のテーマは本州四国連絡橋の南備讃瀬戸大橋という吊橋の耐風安定性についての風洞実験でした。

南備讃瀬戸大橋(左)と崩壊する旧タコマ橋(右)
長大橋梁において動的な耐風安定性が問題とされ始めたきっかけは、よく知られたアメリカのタコマ橋の風による自励振動による落橋事件でした。
研究室の雑談で、風の力をうまく使えないものかという話をしたことがあります。ですから風の力をうまく使いたいという気持ちはよく解ります。しかし、そこで問題になったのは気まぐれな自然風の特性を如何に飼いならせば利用できるか?という点でした。
また、研究室の別の友人は、北九州市に建設予定の高速道路のインターチェンジの高架橋による風の乱れについて研究していました。そこで、冬の北西季節風を狙って、小高い山の上にテントを張って数日間自然風の連続観測を行ったことがあります。風が強い日を狙って観測するわけですが、風が強いと言っても、のべつ強風が吹くわけではありません。テントが飛びそうな強風が吹いたかと思うと突然風が止まり、また次の瞬間には強風が吹くといった具合です。
だいぶ脱線しましたが、自然風とは乱流であることが避けられないのです。乱流とは、乱れのない流れと異なり、風の流れの方向と直行する方向の速度成分を持つ流れです。イメージとしては様々な大きさの渦(竜巻のような3次元的な構造を持つ渦)が全体として主流の方向に流れているような流れです(下図参照)。
この図はJAXAが数値モデル(DNS)を使って乱流構造を画像化したものです。赤が高速領域、青が低速領域、白で示したのが渦を表しています。
自然風では、高度の低い層では地表面の影響を強く受けることになります。高度1km程度までを大気境界層と呼び、更に高度100m程度までの層を接地層と呼び地表面の強い影響を受けます。大気境界層の平均的な風速の鉛直分布は高度の対数に比例すると考えられています。また、風速分布や乱れの強さは地表面の性状(表面粗度:例えば舗装された地面なのか草原なのか森林なのか)、あるいは周辺の地形の影響を強く受けます。
乱れのない風であれば、ベルヌーイの定理から気圧と風速が定まるとどのような風なのかの概要を定義することができます。ところが乱流である自然風は、地表面の性状や地形などの影響によって、様々なスケールの渦を色々な割りあいで含むために、一口で乱流というものを定義することはできません。同じ風速であっても、乱れの性状によってその特性は大きく変わるのです。
一般に風速と言う場合、それは10分間平均風速です。これに対して瞬間風速とは3秒間の平均風速です。瞬間最大風速の風速に対する比率=(瞬間最大風速)/(風速)を突風率と言い、通常1.5〜2程度といわれますが、場合によっては3を超えることもあります。
一般に、地形が複雑で表面粗度が大きいほど乱れが大きく(大きなスケールの渦を含む)突風率も大きくなります。また、平均風速が大きいほど乱れは大きくなります。
さて、自然風の特徴が少しはお分かりいただけたでしょうか?この自然風という乱流は風力発電に利用しようとする場合、非常に厄介であろうということがお分かりだと思います。
通常の火力発電では、タービン出力を完全に制御できるため、定格発電能力に対する発電機本体の余裕はそれほど大きくする必要はありません。タービンの最大出力に見合う発電機を使用すればよいため、設備の利用効率はきわめて高い水準で継続的に営業運転することが可能です。
風力発電では、パワーカーブで示した通り、発電電力量が定格に達すると迎角を調整して発電出力を一定値に保とうとします。しかし、風力発電の定格出力は、発電機の定格出力とは全く違うのです。
既に述べたように、風力発電の動力源は制御不能な自然風の運動エネルギーであるため、絶えず大きく変動し続けています。しかも変動幅=突風率は風速が高くなるほど大きくなるのです。
例示した風力発電装置において風速10m/秒で運転していたとします。突風率が2程度の乱れを持つとして、突然20m/秒の風が吹いて来たらどうでしょうか?風力発電装置は風速計のデータからピッチドライブでブレードの迎角を調整して対処し、定格の発電量を維持しようとするでしょうが、どうしても迎角の調整に遅延が生じることは避けられず、短期的には定格発電能力を大きく超える電力が生じることになるでしょう。また、カット・アウト風速を超える30m/秒の風が吹いたとしたら、迎角制御による調整では間に合わず、これまた過大な電力が生じることになります。
このような事情から、風力発電に使用される発電機は風力発電装置としての定格発電能力に対する余裕をかなり大きくとっておかなくてはならないのです。そのため、風力発電に使用される発電機は、おそらく運転期間中の大部分において発電電力に対して過大な設備になっており、これが風力発電による電力が高価になる本質的で致命的な欠陥なのです。
この自然風の乱れの特性を考慮して、パワーカーブの定格発電能力に対してどの程度の余裕を持つ発電機を選択するかが風力発電装置のコスト・パフォーマンス=エネルギー・コストに大きな影響を与えることは明らかです。余裕を大きくとりすぎれば発電能力当たりの設備費が膨張し、石油利用効率の低下につながります。反面、余裕を小さくすれば発電機破損の危険性が大きくなります。実際に海外だけでなく国内でも数年前に九州のある風力発電施設では台風の強風時に過負荷によって発電機から出火して焼失するという事故が起こっているのです。
このように、自然風の中で運用される風力発電装置の『定格』を定めると言うのは非常に難しい問題です。風力発電装置を建設する場所の風況の特性を考慮して、発電機の限界的な最大発電能力にどの程度の余裕をもって定格発電能力を設定するのかと言う判断には、絶対的あるいは一般的な基準は存在しないのです。
No379 (2009/02/21)
新エネルギーは環境破壊 その@
さて、ここ数年人為的CO2地球温暖化仮説の検討に集中していましたが、一応の結論が出ました(笑)ので、本来の環境問題について、少しづつ考えることにしようと思います。
洞爺湖サミットを終え、米オバマ政権の誕生、更にはオバマによる『グリーン・ニュー・ディール』政策に遅れをとるまいと、我国でも『温暖化対策』、中でも新エネルギー政策が推し進められようとしています。
このHPでは、新エネルギーのような低効率のシステムを大規模導入すれば、確かに経済規模は拡大する=経済拡大政策としては有効だが、環境問題は更に悪化すると繰り返し主張してきました。
そのおかげで、太陽光発電や風力発電愛好者の皆さんからは罵倒され続けています(笑)。私の主張が全く的を外れたものならば罵倒されたところで仕方ないのですが、どうも感情的な反発ばかりで、事実に基づいた批判がないことが物足りないのですが・・・。
勘違いされては困るのですが、私は風力発電や太陽光発電に反対しようなどと言うつもりは毛頭ありません。私の判断基準は、あくまでも「貴重なエネルギー資源である石油・天然ガスや石炭を浪費する、環境負荷の大きい発電システムの導入はすべきではない」と言うことです。
太陽光発電や風力発電愛好者の方には、この辺をご理解いただきたいと思うのですが・・・。愛好者の方が個人の「趣味」で太陽光発電パネルを自宅に設置しようが、小型風力発電装置を設置しようがそんなことに干渉するような無粋なことをするつもりは毛頭ありません(笑)。問題は社会的な電力供給システムにエネルギー・資源浪費的で制御不可能な発電システムを大規模・組織的に組み込むべきではないと言うことなのです。
風力発電にEPTが定義できるか?
ここでは、最近では新エネルギーの中心的な技術の一つと目されている風力発電について考えてみることにします。NEDOや風力発電設置事業者や風力発電愛好者の皆さんは、風力発電は実質的なエネルギーを生み出すシステムであり、投入エネルギーを風力発電で得た電気で取り戻すための期間=
EPT(
Energy
Payback
Time)は1年程度だと信じているようですが、私には到底理解できません。風力発電の実態とはどういうものなのかを考えてみましょう。
風力発電は既に実績も多く、本来ならば実績に基づいてその実態を検討すべき時期に来ているはずなのですが、どうしたわけかそのようなレポートはほとんど存在しませんし、実績を示すデータもあまり入手することができません。
これは、
つくば市の風力発電訴訟からも判る事ですが、計画通りにうまく発電を続けている風力発電施設が少ないことの反映だと考えています。もしうまく行っているのならば、おそらく実績を示すデータを使って大いに宣伝するはずですから・・・。これは私の邪推でしょうか?。
そのようなわけで、ここでは断片的な情報から仮想のモデルを作って検討することにします。
| 定格出力 | 1,000kW |
| 設備利用率 | 25% |
| 初期費用 | 300,000,000円(内50%NEDO補助) |
| 耐用年数 | 17年 |
| 売電価格 | 11.5円/kWh |
さて、このモデルが、耐用期間終了時に収支が均衡するという条件で考えることにします。実際には採算割れする事例も少なくないようですから、かなり楽観的な仮定ですが・・・。まず、耐用期間中の総発電量を求めます。
1,000kW×24(h/日)×365(日/年)×17(年)×0.25=37,230,000kWh
次に、売電収入を求めます。
37,230,000kWh×11.5(円/kWh)=428,145,000円
発電経費をA円として、17年間で収支が均衡するものとします。この際利払いは無視しておきます。
300,000,000円(初期費用)+A円(経費)=428,145,000円(売電収入)+150,000,000円(NEDO助成金)
∴A円=428,145,000円+150,000,000円−300,000,000円=278,145,000円
風力発電電力の原価は次の通りです。
(300,000,000円+278,145,000円)÷37,230,000kWh=8.06円/kWh+7.47円/kWh=15.5円/kWh
以上の試算をまとめると次の表に示す通りです。
| 定格出力 | 1,000kW |
| 設備利用率 | 25% |
| 初期費用 | 300,000,000円/1,000kW(内50%NEDO補助) |
| 発電経費 | 278,145,000円/(1,000kW×17年間) |
| 耐用年数 | 17年 |
| 売電価格 | 11.5円/kWh |
| 電力原価 | 15.5円/kWh |
さて、この順調に運転され耐用年数を経過したモデル風力発電システムのEPTを考えることにします。
一般に、工業製品の価格には、その製品を作るまでのプロセスで投入されたエネルギーの費用(エネルギー・コスト)が含まれています。風力発電からの生産物である電力原価にもエネルギー・コストが含まれています。
風力発電の場合、特殊なのは生産物である電力の原料は自然風の持つ運動エネルギーという自由材です。この場合、生産物である電力の生産コストに含まれるエネルギー・コストとは、風力発電装置の製造と風力発電装置の運転維持という発電経費に含まれるエネルギー・コストになります。工業的な機械生産や機械装置の操業におけるエネルギー・コストを費用の20%程度と仮定しておきましょう。これについては異論のある方もいらっしゃるでしょうが、それほど実態とかけ離れたものではないと考えています(積上げによる詳細なデータをお持ちの方は是非、情報提供をお願いします。)。
モデルケースの場合、発電原価に占めるエネルギー・コストは次の通りです。
15.5円/kWh×0.2=3.1円/kWh
さて、エネルギー・コストとは具体的には石油価格と考えられます。投入する重油価格を20円/Lとしておきます(ここ数年、原油価格は政治・経済のカードとして乱高下していますが、高騰前の価格で考えておくことにします。)。3.1円は重油3.1/20=0.155Lに相当します。重油の燃焼熱を9Mcal/L=37.8MJ/L=10.5kWh/Lとすると、重油0.155Lの燃焼熱量=エネルギー量は
10.5(kWh/L)×0.155(L)=1.63kWh
つまり、風力発電で1kWhの電力を得るために燃焼熱1.63kWh分の重油の投入が必要なのです。
エネルギー産出比=(生産エネルギー量)/(投入エネルギー量)=1/1.63=0.61<1.0
エネルギー産出比が1.0未満であれば、産出エネルギーによって投入エネルギーを回収することができないことを意味しています。つまり、EPTは存在しないのです。
ちなみに、火力発電のエネルギー産出比は0.35〜0.5程度であると考えられます。風力発電がエネルギー産出比0.61を安定的に維持し、発電出力が制御可能であれば、石油利用効率と言う側面だけから考えれば火力発電に取って代わる可能性を否定しません。
さて、ではNEDOや風力発電愛好者の皆さんが言う『風力発電のEPTは1年間程度』と言う主張について検討してみましょう。この場合、耐用年数を17年とするとエネルギー産出比は17になります。電力1kWhを生産するために投入される重油の熱量は、1/17=0.059kWhになります。これを重油価格に換算すると、
0.059(kWh)÷10.5(kWh/L)×20(円/L)=0.11円
風力発電電力の原価に対するエネルギー・コストは
0.11/15.5=0.0071=0.71%
これは、風力発電設備が工業製品である限り絶対にあり得ない数値です。
参考:資源エネルギー庁/エネルギー白書2007