弁護士・永沢徹 企業乱世を読み解く

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【第60回】 2009年03月27日

アニメ業界の「下請いじめ」が明らかに。
夢描く業界で蔓延する制作現場の疲弊

――悪しき商習慣是正のため、経産省がガイドライン策定へ

 これら悪しき取引慣習の背景にあるのが、発注側と下請け側の“力関係”である。

発注書なきまま転々と再委託
アニメ業界の実態

 話をアニメ業界に戻そう。アニメ作品の企画・制作というのは、テレビ局や映画会社などが大元の「発注元」となることがほとんど。その発注元から、大手アニメ制作会社などの「元請け」に制作委託され、さらにそこから「下請け」→「孫受け」→「ひ孫受け」といったように転々と再委託が行なわれていく“多層構造”になっている。元請け以外の制作会社はほとんどが資本金1000万以下の中小・零細企業である。

 ちなみに「下請法」においては、アニメ作品というのは「情報成果物」という分類に指定されている。その分類によって、「下請法」に該当する事業者の資本金規模が定められており、アニメ業界では次の通りである。

■親事業者(発注者)が5000万円超の場合は、下請けは5000万円以下の業者
■親事業者(発注者)が1000万円超の場合は、下請けは1000万円以下の業者

 発注元→元請けの段階では両社が大企業であることが多いため、下請法の対象になることは少ない。よって、「下請法」の主な対象となるのは、元請け→下請け以降の再委託取引である。ここで「下請法違反」といえる問題が蔓延しているといえる。

 前述した公正取引委員会による実態調査では、制作業務の発注において発注書面等を必ず受領している割合は2割にも満たなかったという。「下請法」においても、親事業者(発注者)には、発注書や契約書をはじめとした「書面の交付義務」が課されている(当然ながら、口頭での発注はNG)。また、制作会社の8割超が、発注書面等が必要であると感じていることからすると、現実はその理想からかけ離れたものであるといえる。発注書がないことで、後に不当な減額や納期などのトラブルを生んでいるのは明らかである。

「下請法違反」の判断
業界ならではの難しさも

 「書面の交付義務」以外にも、「下請法」では「禁止事項」がいくつか設けられている。例えば次のようなものだ。

1)商品の受領拒否の禁止
2)買い叩き(不当減額)の禁止
3)返品の禁止
4)不当なやり直しの禁止
5)報復措置の禁止
など

 冒頭に書いた通り、「下請法違反」として最も多いのは、2)買い叩き(不当減額)である。あらかじめ発注代金を取り決めていたとしても、最終的には「決算協力金」や「システム利用料」「販売協力促進費」といった名目で、発注代金から金額を差し引くというケースも多い。アニメ業界や映画業界などでは、大量にチケットを押し付けられ、その代金を差し引かれることもあるという。ひどい場合には、ギャラの高額なタレントや声優の起用を強制され、そのギャラを制作費から差し引かれるようなケースもあると聞かれ、そうであれば明らかな「下請法違反」である。

関連キーワード:社会問題 格差 構造改革 メディア 産業

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執筆者プロフィル

写真:永沢徹

永沢徹
(弁護士)

1959年栃木県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験合格。卒業後の84年、弁護士登録。95年、永沢法律事務所(現永沢総合法律事務所)を設立。M&Aのエキスパートとして数多くの案件に関わる。著書は「大買収時代」(光文社)など多数。永沢総合法律事務所ホームページ

この連載について

100年に一度の経済危機に見舞われ、企業を取り巻く環境は大幅に悪化。“企業乱世”ともいえる激動時代の経済ニュースを、弁護士・永沢徹が法的な視点を加えながらわかりやすく解説する。