「100年に1度」の経済危機に政府をあげて取り組まねばならない中、信じ難い、たるみである。平田耕一副財務相(自民党衆院議員)が、所有会社の株を市場外取引で大量売却したことが発覚、副大臣規範に抵触していた責任を取り、辞任した。
経済政策で中心的役割を果たさねばならない財務省だが、中川昭一前財務・金融担当相が「もうろう会見」の醜態を演じ辞任に追い込まれたばかりだ。その記憶も生々しい中、今度は副財務相が株取引をめぐり規範に触れ引責というのだから、あきれる。不祥事の続出は、内閣全体が緊張感を欠いている表れだ。その責任を麻生太郎首相は重く受け止めなければならない。
東海財務局に提出された大量保有報告書によると、平田氏は保有していた石こうボードメーカーの株112万株を、実質的なオーナー企業である石油製品販売会社に対し今月2日、市場外取引で売却した。売却価格は6億円超と、市場価格の倍近い値段だった。
閣僚らの株取引をめぐっては「国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範」が在任中、株式などの有価証券の取引を自粛するよう定めている。加えて、保有株式は信託銀行などに信託することも求めている。他の閣僚や副大臣はもちろん、経済対策の任にあたる副財務相が規範に対し、より一層の注意義務を課せられることは言うまでもない。09年度予算案の成立を控えて国会が混乱する事態を回避したい与党の思惑も働いてのスピード決着となったようだが、辞任は当然である。
市場外取引で市場価格の倍で売却した経緯には疑問が残り、不透明な取引と言われても仕方あるまい。平田氏は「(規範違反かは)微妙」と言うが、こんな取引を在任中に行うこと自体、副財務相として自覚に著しく欠けていると言わざるを得ない。
それにしても、なぜこのような事態を防止できなかったか、政府は真剣に検証すべきだ。平田氏が就任時に保有株を信託していないことを是正できなかったことは、問題だ。内閣としてのチェックが正常に機能していたか、厳しく問われる。そもそも、平田氏がどこまで規範の内容について正確に理解していたかすら、疑問である。
首相は先日、経済危機克服のため株式市場の活性化を議論している際、「株屋っていうのは何となく信用されていない。株をやっていると言ったら、田舎じゃ怪しげよ」と発言し、物議をかもした。「政治とカネ」をめぐる国民の批判が強まる中、株取引自体のイメージを損ない、市場心理を冷やすのは自らの政権のこうした失態ではないか。
民主党の小沢一郎代表の秘書起訴とともに、与野党が政治不信を加速し合う状況が続いている。負の連鎖は、実に深刻である。
毎日新聞 2009年3月27日 東京朝刊