約一カ月の間に二人の幼い命が奪われた秋田の連続児童殺害事件で、殺人と死体遺棄の罪に問われた無職畠山鈴香被告に対する控訴審判決で仙台高裁秋田支部は、無期懲役の一審判決を支持した。「犯行の悪質性や遺族感情に照らせば、死刑を選択するほかない」としていた検察側の控訴を退けた。加速する厳罰傾向に一定の歯止めをかけた判決といえよう。
事件は二〇〇六年に起きた。小学四年の畠山彩香ちゃんが四月九日に行方不明となり、翌十日に自宅近くの川で水死体で見つかった。五月十八日には二軒隣の小学一年米山豪憲君が川岸で絞殺体で発見された。逮捕されたのは、彩香ちゃんの母親だったことで社会に大きな衝撃を与えた。
一審の秋田地裁判決は、彩香ちゃん事件で「橋から川に突き落とした」と指摘し、殺意を認定した。豪憲君事件では殺害後、犯人であると発覚することを避ける目的にかなった行動を取っているなどから刑事責任能力を認めた。一方で計画性を否定し、更生の可能性も挙げて死刑を回避した。
控訴審は、一審が無期懲役とした量刑判断の是非が最大の焦点だった。豪憲君の両親は「被告に更生の機会が与えられる世の中なら絶望します」と死刑を求めた。小学校に入学し、希望に満ちあふれていたはずなのに、何の落ち度もないわが子が殺害された両親の厳しい処罰感情は理解できる。事件から約三年になるが、悲しみは癒えるものではあるまい。
高裁支部は、一審同様に彩香ちゃんへの殺意と豪憲君殺害の責任能力を認めた。彩香ちゃん事件では「危険な欄干に乗せて、落下を防ぐ配慮をせず、落下後も安否を気遣う行動をしていない」と指摘した。
最近は子どもを標的とした事件や「だれでもよかった」などと理不尽な殺人事件が相次ぐ。司法での厳罰化が目立ち、携帯電話の闇サイトで知り合った男三人が女性会社員を拉致して殺害した事件では、名古屋地裁が被害者は一人でも男二人に死刑を言い渡した。
仙台高裁支部判決は、死刑回避の理由を「用意周到に計画したわけではない」と計画性を認めず、「財産などの利欲目的でもない」などとした。裁判員裁判が五月から始まることを考えれば、参加する市民にとっても凶悪事件で死刑か、あるいは無期懲役とするかなどをめぐって、より慎重な判断が求められるといえよう。
政府の地方分権改革推進本部が、国の出先機関改革のスケジュールなどを示す工程表を決定した。焦点だった組織の統廃合や職員削減の数値目標は盛り込まれず、懸案は先送りされた。このままでは分権改革は骨抜きにされかねまい。
地方分権改革推進委員会は昨年十二月、国の出先機関の統廃合などを求める第二次勧告で、国土交通省地方整備局など六機関を「地方振興局」と「地方工務局」に再編することや、出先機関職員約三万五千人の削減目標などを政府へ提言した。
これを踏まえた工程表は、新体制への移行時期を「二〇一二年度」と明記したものの、組織の見直しについては「勧告で示された改革の方向性に沿って検討」するとの表現にとどめた。具体的な人員削減目標にも踏み込まず、年内にまとめる「出先機関改革大綱」に結論を持ち越した格好だ。
麻生太郎首相は推進本部で「工程表は改革の実現に向けた一里塚だ」と述べたが、出先機関のスリム化に向け具体的な方向性が示されない工程表では意味がないのではないか。
国の出先機関の改革は、国と地方で仕事が重なる二重行政の無駄を排除するのが狙いだ。しかし、関係省庁や族議員は地方拠点への切り込みは組織や権限の縮小につながるとして反発を強めてきた。改革大綱の策定をにらんだ今後の調整も難航は避けられまい。
求心力を失った麻生政権の足元を省庁側が見透かしている側面もあろう。地方税財政改革を提言する分権委の第三次勧告も当初の五月末から大幅先送りの可能性が出ており、現状では自立した「地方政府」の実現はとうていおぼつかない。政治主導で分権改革を推進する体制を強化しなければならない。
(2009年3月26日掲載)