今回は、官僚主導が生む弊害についてお話します。日本の官僚は海外より劣る、といわれる昨今。福田内閣は、公務員制度改革に着手しようとしています。国民の監視とともに、反発する官僚に対しどう焦点を合わせていくか今後の課題なのです。
ビデオコラムよりテキスト化・一部抜粋
――いろんな問題があります。そういうことを考えると日本の官僚はきわめて優秀でない。国際的にみると競争力がないというんですが、日本の官僚は外国の官僚より相当に劣る、と言われるようになりました。そこで官僚のどこが悪いかということを考えてみますと、まず大きな問題として官僚に倫理観がない、倫理が腐敗している。これは最近、防衛省の人でも、前には厚生省の人とかいろんなところで問題になりましたが、いわゆる「私利私欲に走る」、これが腐敗なんですね。自分では悪いことだと分かっている、分かっていても「私利私欲に走る」。これが倫理の腐敗です。
こういうことはどこの国でもあります。腐敗は日本は少ない方だと私は思います。民間企業でもそんなことはあるでしょう。問題は、そういう腐敗した官僚が出世するということなんですよ。防衛省でも問題になりました。厚生省でも問題になりました。財務省、前の大蔵省でも問題になりました。その人たちが事務次官とか局長とか、どんどん出世しているということが問題なんですね。民間企業だったらおそらくそういう私利私欲に走った人は出世しないでしょう。ここが重要な問題です。
けれども、もっと大きな問題はこちらです。倫理の退廃。何が良いか分からない、何が良いことか何が悪いことか分からなくなる。これがいちばん問題なんです。そのいちばんの例は、私が小学生の時、子供の時に聞かされた一億玉砕ということですね。当時の軍人は、日本がだんだんと戦況が悪くなった。そうすると本気で「日本は一億玉砕するんだ」と言っていたんです。それがいちばんいいんだと。国民全部に「死ね」というほど悪いことはありません。ところが、悪人でも阿呆でもない軍人さんが、個人的には立派な軍人さんが「一億玉砕だ」と。これが倫理の退廃。言っている本人は本当にいいことを言ってるつもりで、「これこそ忠義だ」と思っているのですが、客観的に見るとこれほど悪いことはない。そういうようなことが起こるんです。
じつは、いま日本の官僚はこの倫理の退廃に陥っているのではないか、これが大問題です。倫理の退廃が起こるのはなぜか。これは三つの理由がありますが、第1は仲間共同体。官僚ばっかりの共同体になる。官僚は国民のため国のために政策を作るのに、じつは官僚同士のための意識になってしまう。自分たちがいかに楽をできるか、いかに権限を握るか、いかに天下り先が増えるか、そればっかりが忠義の対象になってくるんです。こうなると非常に困る。つまり、仲間共同体になる。いま非常にそういう傾向がありますね。
2番目は環境への過剰適応。日本の官僚機構というのは、あの高度成長の時代、規格大量生産の時代に合わせてできたんですね。だから規格大量生産には非常に合ったように作った。前回申し上げました東京集中、東京一極集中体制もそうです。それをいったん作ってしまうとそこから抜け出せない。時代が変わった。いま、規格大量生産の時代ではなしに多様な知恵の値打ちの時代になった。それでも規格大量生産の方式しかできない。これが2番目の重要な問題です。
そして3番目は、成功体験に埋没する。あの高度成長の時、戦後の復興から高度成長まで、1970年代80年代日本は成功した、「だからあのやり方でいいんだ」と思ってしまうんですね。とくにこれは、人間でもそうです、個人でも、1回でも大穴を当てると大穴狙いになるという、そういう成功体験があるんですけれども、組織の場合には成功した分野、これがどんどん中心になる。だから、ますますこれがひどくなるんです。たとえば日本海軍。昔、日露戦争のときに勝った。日露戦争はロシアの艦隊、バルチック艦隊と大砲の打ち合いで勝った。そうすると、「大砲を打つことが大事だ、艦隊決戦が大事だ、輸送船を沈めるなどというのは端の端である。飛行機も潜水艦も端である。やっぱり戦艦で大砲を打つことがいちばんいいんだ」というので、太平洋戦争まで大艦巨砲主義、艦隊決戦主義が取れなかった。今の日本の官僚も高度成長時代のままである。こういうような状態に陥っているのではないか。
そこで、いま福田内閣が問題にしているのは、公務員制度を変えようということなんですね。道州制と並ぶ重要な問題は、この公務員制度をどう変えるか。当然、官僚からは「変えるな、反対だ、今のままが良い、仲間うちでやりたい、みんなが官僚自身が気楽に定年まで行ってどんどん天下りができたらいちばんいいんだ……」それにはいろんな理屈をつけてきますから、これができるかどうか、日本の大改造の2番目の問題なんですね。これは官僚機構との熾烈な争いになります。当然、官僚機構からはいろんな情報が流されて、「今のままがいいんだ、官僚さまに任せてほしい」というような声が出てくると思いますが、ぜひこの点も国民の皆さん方はよく監視し、この官僚制度の改革を応援していただきたいと思っています。――
 |
映像の配信には富士ソフト(株)の【FSStream】を使用しています。 |
・映像配信(ストリーミング)は、Windows用「Internet Explorer 5.5以上」に対応します。ほかのブラウザ、OSには対応していません。
・初めてご覧になるときはプラグインをインストールします。「セキュリティ警告」のダイアログボックスが表示されますが、「はい(y)」を選びます。自動的にプレーヤーがインストールされ、ストリーミングがスタートします。 |
>>初めてストリーミングをご利用になる際の注意点 |
>>堺屋太一ビデオコラム
シリーズ一覧: